2019/05/16

Tosca

カウフマンが喉の不調のため最初の3公演をキャンセルし(その後結局全公演をキャンセル)、プルミエールの今日のカヴァラドッシはグリゴーロ。なんて贅沢な代役✨そしてカヴァラドッシのChe fai?からもうここは紛れもなくローマ!カヴァラドッシにはグリゴーロの太陽のようなそれでいてブロンズの輝きのある声、最高!今日1公演だけなので最初から最後までフルスロットルで走り抜けるのかと思ったら、トスカへの愛のささやき、E lucevan le stelle...の内向的な呻き、E muoio disperatoの爆発的な絶望までなんというニュアンスに富んだエモーション溢れる歌唱!素晴らしい!
彼は素直でその日の自己評価がサリューのパフォーマンスでだいたい想像できるんだけれども、今夜は自分で満足できる出来だったんじゃないかなと思う。いや本当に素晴らしかった。

アーニャ・トスカはヴィットリオ・カヴァラドッシの大波のように押し寄せる愛を、押し流されることなくディーヴァとマドンナの愛で受け止めるのですよ!!!あー、第1幕のデュオ、聞き応えあったわー堪能したわー。
彼女のあの美しい声、張りと輝きと滑らかさとありとあらゆるニュアンスと…。そして彼女のincarnationが凄い。フロリア・トスカになりきってる感じするもの。嫉妬に美しく(←大事)焦げていたのにOh, come la sai bene l'arte di farti amare! でうっとりと溶けるようなトスカから軽蔑と憎しみのこもった凄みのあるQuanto?のトスカ、Tieni a mente... al primo colpo... giù...の茶目っ気たっぷりのトスカ…。
だからMario... con te...のところで彼女の前でバターンとドアが閉まるとぎゃーーーー!私のトスカに意地悪しないでー!って思わず心の中で叫んじゃったりするのよねw前回彼女のVissi d'arteを聴いて初めてトスカで涙したけれども、今回トスカとしてさらにレベルアップしてる感じするわ。終演後、世界中のトスカ賛辞を集めて花束にしてハルテロスに届けたい気持ちでいっぱいになった。

スカルピアはちょっとインテリを気取った小粒な悪徳親分だった。あのトスカとカヴァラドッシの間で影が薄かったし声もときどきオーケストラに遮られてて気の毒な感じさえした。スカルピアがこれじゃあちょっと信憑性に欠ける。スカルピアはあんな奴だけれどもバロンだからノーブルさが感じられないとキャラクターが薄っぺらくなる。ターフェルは邪悪さで光っていたけれどもその点いまひとつだった印象。テジエは役者じゃない分控えめな演技が酷薄なノーブルさを感じさせてよかったのを思い出した。

エッティンガー指揮のオケは、お涙頂戴に陥らず弾むようにキレのいい演奏。外連味たっぷりのプッチーニを聴かせてくれた。映画のサウンドトラックみたいな印象だったけれども。そういう意味ではスピリチュアリテのある音楽性ではなく、舞台上の巨大黒十字架がまったく無意味に見えた。
日曜日の公演、ハルテロスが降板しないことを祈りつつ、ルックスは期待できそうなプエンテ氏が(同じアルゼンチン出身だし)若い頃のアルヴァレスみたいな歌唱を披露してくれることを願うばかり。

トスカへの最後の手紙を託せることになったカヴァラドッシ、紙を前にペンをとるも何も書き出せずに紙をクシャクシャにし、その上に突っ伏して泣き崩れる!ひとしきり泣いた後、正気を取り戻したように紙のシワを伸ばして手紙を書き始めしばらくしてペンを置き、夢見るような表情で空を見上げてE lucevan le stelle... ここはリヴレにそこまで指定されていないのでグリゴーロのinterpretationだと思うけど(アルヴァレスはこういう演技じゃなかったのでオーディの指示ではないはず)本当に上手いね、こういうシーンの見せ方。

昨夜のトスカとカヴァラドッシは、この先何が起きるか誰も知らない、という現在進行形のトスカを見せてくれた。これは演出に対してでもこの後◯◯はこうなるんだから(そういう演技はあわない)と言ったソリストにシェローが応えた言葉だけれども、それを感じさせる公演は数少ない…。


Direction musicale : Dan Ettinger
Mise en scène : Pierre Audi
Décors : Christof Hetzer
Costumes : Robby Duiveman
Lumières : Jean Kalman
Dramaturgie : Klaus Bertisch
Chef des Choeurs : José Luis Basso

Floria Tosca : Anja Harteros 
Mario Cavaradossi : Vittorio Grigolo
Il Barone Scarpia : Željko Lučić
Cesare Angelotti : Sava Vemić
Un carceriere : Christian Rodrigue Moungoungou
Il Sagrestano : Nicolas Cavallier
Spoletta : Rodolphe Briand
Sciarrone : Igor Gnidii

Parterre 12-12