2012/10/27

La Fille du Régiment / 連隊の娘 ③(2012年10月27日 @Opéra Bastille)

今日は前回書いたホフマン物語を見るのに最適な席。(前々列にジョコヴィッチがフィアンセと
横にH&Aの演出家アレクサンドルと指揮者のミンコフスキも。)

ドゥセもフロレスも100%とはとても言い難く(特にドゥセは不調と言った方が正しいかも)、随分セーブして歌っていました。そのせいか、フロレスはアンコールに応えて"Ah, mes amis"を2回歌ってくれたのです。声自体は気をつけて歌っていたせいかとても美しく響いていましたが、先週の歌唱と比べるとパフォーマンスとしては70%弱といったところでしょうか。
観客はフロレスが思いがけずアンコールに応えてくれたので大喜びでしたが、あれは彼の本当のパフォーマンスではないなー、と思いながら聴きました。1度で満足な歌唱ができたら2度目は必要ないんじゃないですか、とインタビューに答えていたことがあったのでそれが彼の考え方かなと思います(もちろんそれ以降考えが変わったかもしれませんが)。コーラスのシェフが「18回のハイC」なんて嬉しそうにツイートしているのを見て、あらら…、と複雑な気持ちになりました。
"Pour me rapprocher de Marie"を聴きながらほんとうにハラハラしどおしでした。音の伸びがなくて、それでもひとつひとつの音を投げ出さずに大事に歌っていたのでレガートに少々難ありだった気がします。曲が進むにしたがって、極弱く極高い最後の音をどうするのかと気が気じゃありませんでしたが、さすがフロレス、しっかりと決めてくれました。調子が万全ではない時もある一定レベルの歌唱ができるのも、プロとして不可欠の才能なんですね。そしてフロレスの場合、そのレベルがとても高いのだと実感しました。
ドゥセもフロレスも顔にありありと疲労感が漂っていましたが、最終日あと1回大丈夫かしら…、と他人事ながら(私は最終日の席を手配しなかったので)心配になります。
今シーズンこの2人の連隊の娘を観られて本当に幸せでした♡ トータルのパフォーマンスとしては2回目がベストでしたが、インパクトはやっぱり初日がいちばん強かったですね、忘れられません。

オマケ: ローラン・ペリーとよく一緒に仕事してるシャンタル・トマスという舞台装置家がいますが、「シャンタル・トマスって下着のデザイン以外にもこんなことしてるのねぇ」と言う人が時々客席にいて、「別人ですよー」と言いたくなります(笑)。

2012/10/23

Médée (2012年10月23日 @Théâtre des Champs-Elysées)


 第1部(上)と第2部(下)の緞帳。クローディア・シーファーや
スカーレット・ヨハンソンのなど顔をコラージュしたものとのこと…

Hippolyte et Aricieを観た直後「あ、ステファンが歌う!」と、中央のよい席があったので演出家もセノグラファーも確かめずに即予約してしまったオペラです。予習を始めたところでこのセノグラファーのアーティストとしての作品を見て呆然としました。いやー、参りました。彼を知っていたらおそらくこの公演は見送ったことと思います。「なに、これを観に行くの?どうして?」などと言われ「それは私も訊きたい」と憮然としたものです。


ひとことで言って、Médée役のミシェル・ロジエの独壇場でした。嫉妬と復習の炎をメラメラ燃やす王女そのものを好演。赤いエナメルのラップコート風の衣裳が安っぽく見え、気の毒でしたが。歌唱に芯があり、役柄にうまく入り込めたのか自信が感じられ、もちろんまだコノリーほどのプレゼンスと貫禄はないけれどこの先がとても楽しみなメッツォです。
それにひきかえ彼女の夫ジャゾン役のAnders Dahlinの歌唱は「何、これ!」と思わず言いたくなるような出来。声のトーンを保てず、よく聞き取れないような薄紙のような声でスカスカと歌ったかとおもうと急に大声を張り上げたり、完全に音をはずしたり…、今日は調子が悪かったのだろうと彼の名誉のためにも思いたいところ。
ジャゾンがそんな調子なので、オロント役のステファンの歌唱が際立って美しく聞こえました。テゼー役の時にも感じましたが、口跡がよくて艶と質感のある声に品格の高さが加わってまさにバロックオペラのためのような声です。(テゼーの時と違って馬子にも衣装的効果がなくて視覚的には残念ではありましたが…)
クレオン役はLナウリ。奥様のドゥセと同じく演技派でなかなか魅せてくれます。ただ最初は歌唱も好調だったのに、第2部が進むに連れてだんだん声の密度が薄れていってしまったのがちょっと残念でした。
それにしても、意味不明なセノグラフィと意味不明な演出、全身黒タイツに身をつつみ、ユニクロのダウンベストを羽織った人々が組み体操みたいなことをする意味不明なダンス…私には視覚的に全く理解不能な舞台でした。
残念なことに音楽が印象に残っていません。多分初めて観るオペラだったので音楽的な面よりも芝居の方に意識が行っていたのだと思います。それにホールのせいか席のせいか、H&Aと同じオーケストラ(ル・コンセール・ダストレ)が乾燥した厚みのない音に聞こえました。が、これは指揮者の意図するところかもしれません。


Emmanuelle Haïm : direction
Pierre Audi : mise en scène
Jonathan Meese : scénographie
Marlies Forenbacher : scénographe associé
Jorge Jara : costumes
Willem Bruls : dramaturgie
Jean Kalman : lumières
Kim Brandstrup : chorégraphie


Michèle Losier : Médée, La Gloire
Anders Dahlin : Jason
Stéphane Degout : Oronte, un chef des habitants, un berger
Sophie Karthäuser : Créuse, La Victoire, 2e bergère
Laurent Naouri : Créon
 

Le Concert d’Astrée
Chœur d’Astrée


*セノグラファーのJ. Meeseはドイツ人の人気コンテンポラリーアーティストだそうです。2016年のバイロイトでパルシファルを担当するという噂を聞きましたが、本当だったらどんな舞台になるのか恐いもの見たさで気になるところ。






2012/10/21

La Fille du Régiment / 連隊の娘 ② (2012年10月21日@Opéra Bastille)




今日の観賞後の一言は「生きててよかった!」
初日の時に上から見下ろして確認して想像していた通り、今日はこのプロダクションに関して言えばこれ以上は望めようもないほどいい席での鑑賞となりました。
クール側(偶数番号の席)の観客はかなり欲求不満が残ったのではないかしら、と思われるほど(もちろん演出&フロレス自身の癖もあるでしょうが)ジャルダン側(奇数番号の席)には大サービスという感じで、心ゆくまでフロレスの歌唱を堪能いたしました。なんと言ってもトニオがですね、真正面20mくらいのところからワタクシの方に向かって手を差し伸べて"Ah, mes amis"を歌ってくれる(ように見える)のです!!!思わず立ち上がって舞台に向かって手を差し伸べたくなるのを一生懸命堪えましたが…。
多分この列より前になるとアリアは頭上を通過してしまうんじゃないかなと思います。でもどの演目でもここら辺がいいかというとそうではなくて、例えばあのグランディオーズなセット&演出のホフマン物語は15~19列目の真ん中あたりのほうがずっとよく舞台を楽しめます。それにしても、後から取った27日の席を変更してもらって本当によかった。最初にとった席はクール側だったので、悔し涙にくれたであろう可能性が大です。
初日よりもソリスト達はスムーズな波にのった感じでしたし、フロレスも声の硬質感がとれてそれはもう艶やかかつボリュームのある、輝く美しいアリアを聴かせてくれました。この中音域の濃密感というのはROH公演の頃には感じられなかったものですね。今後「天使に祝福された声」と言われる彼の声がどのように進化していくのかとても楽しみです。
オペラ全体としては今日の公演の方がコンプリート感があって充分に堪能できましたが、初日に受けた雷に打たれたようなあの衝撃を感じられなかったのは当然のことかもしれません。
こういう感動はそのまままるまる自分の心に取りこんで、分析などはあまりしないようにするのがいいのかもしれません。分析して言葉にしていくほど、自分が感じた本質から離れていくような気がして「あれ?そうだったかナ?」と実に不要な疑問が湧いてきたりするものですから…。

2012/10/15

La Fille du Régiment / 連隊の娘 ①(2012年10月15日@Opéra Bastille)



前につんのめったような状態で飛びついてしまったのでこんなに高い席なことが残念ではあるが…
(2ème balconの1列目、いちばん端の席だった)

待ちに待ったLa Filleの初日!
観賞後のひとことは、「あぁ神様!」。5月のTCEでのリサイタルでもフロレスの声のインパクトにノックアウトされたが、それとはあらゆる面で比べものにならない(比べようもないが)。
何と言っても歌よ、歌!オペラなのにこう言いきってしまっては身も蓋もないが、演出でもセノグラフィでも衣裳でもなくて、何よりもフロレスの歌唱に衝撃をうけた。もちろん演出もセノグラフィもよかったけれど。(マリーの衣裳はちょっと好みから外れている。)
"Ah mes amis!"に向かって観客の期待がふつふつと高まっていくのが感じられ、アリアの最中のホールは完全にフロレスのパーフェクトなラインの歌唱とオーラに満たされつくしている。パリでフロレスの"Ah mes amis!"を初めて聴いているのだ(リサイタルではなく)!歌い終わった時にはまるでバスティーユのホールが崩れ落ちるのではないかとおもわれるほどの拍手と歓声。それまで最高潮に達していた圧力がどっと解放されたかのよう。パリの観客はいつもクールでスタンディングオヴェーションもめったにないが、こんな大音響での熱狂の渦のなかに身をおいたのはは初めてだ。
有名なこの"Ah mes amis!"がハイライトのような気がするが、私は第2幕のロマンス"Pour me rapprocher de Marie"が歌詞もメロディーもより心をうつものと思っている。ここをフロレスはひとつの音もおろそかにすることなく、まるで手中に儚い宝物を持っているかのように美しいレガートで大事に大事に歌い上げる。もうね、感涙ものなワケです。これを聴いて心を動かされないようなヒトは人間じゃあありません。
そしてフロレスって歌唱はもちろん、演技にも雑なところが全くなくて、それがまた感動を倍増させるのね。



フロレスはロイヤルオペラハウスのDVDに比べて格段にフランス語が上手になっていて、それもまたこの作品に完全にのめり込める大きな要因のひとつになっていたと思う。イタリア語やドイツ語ならそこまで解らないのでそれほど気にならないが、あまりにフランス語のディクションが悪いと興醒めなのだ。その点ドゥセはフランス人だし、コルベッリも英語よりフランス語に堪能なくらいだし、願ってもない好トリオ。これまで何度もこの演目で共演しているこの3人のコンプリシテ感が観ていてとても楽しい。

またドゥセのピアニシモをホールの隅々までしっかりと届ける歌唱をあらためてすごいなぁと思った。今日は少しパワー不足なのをメリハリを上手くつけてコントロールしているかなという感じ。高音はやっぱりちょっと厳しいかなと思わされるけれど、中高音の滑らかさと美しさが加わった感じがした。あと言うまでもなく彼女は役者。よくもまぁあれだけ動いて演じてしっかりはずさずに歌いきれるなぁと感心。細身ながら筋肉質。


先シーズンのセビリアの理髪師でもとてもよかったマルコのイタリアオペラの指揮はとても気に入っている。今日も期待を裏切らない爽やかで軽やかな(浅薄ではない!)メロディーのドニゼッティを聴かせてくれた。

いやフロレスは本当にペルーのポップス歌手になってなくてよかった…。フィラデルフィアのカーティスに留学する時、航空券を買うためにルノーを売ってくれたお母さん、本当にありがとう。もし航空券が買えないからって留学話がおじゃんになってたら、フロレスのいない今のオペラ界はどんな風だっただろうとしみじみ思う。
リシュリュー・ドゥルオで降りてから、フロレスのアリアを思い出してはポロポロ泣きながら歩いて帰ってきたのであった…


Marco Armiliato Direction musicale 
Laurent Pelly Mise en scène et costumes 

Natalie Dessay : Marie 
Doris Lamprecht : La Marquise de Berkenfield 
Dame Felicity Lott : La Duchesse de Crakentorp 
Juan Diego Florez : Tonio 
Alessandro Corbelli : Sulpice 
Francis Dudziak : Hortensius 
Robert Catania : Un Paysan 
Daejin Bang : Le Caporal


オマケ:クラケントープ公爵夫人はフェリシティー・ロット。アコーデオンに合わせてモンセラート・カバレも歌ったらしい"G' Schätzli"を歌ってくれる。