2013/05/31

La Gioconda / ラ・ジョコンダ② @Opéra Bastille



ラ・ジョコンダの最終日。
ディストリビューションには前回同様、23時10分頃終了とあるが前回カーテンコールの後幕が下りたのが23時25分だったので、今日は急いだのか第1幕でオレンを始めソリストまでもが観客に拍手をする間も与えずにズンズンと進んでいく。
が、結局第2幕のエンゾのアリア"Cielo e mar!"の後ですかさずブラボー&拍手が入り、あとは前回と同じようになってしまった。そしてどういうワケか今日最後の幕が下りたのはほぼ23時30分だった。でも最終日だから、まあいいのか。金曜日だし。でもカーテンコールの途中で席を立つ人がとても多かった。
所々オケと合唱がずれるところがあって、少し気になる。前回はなかったと思う(気づかなかっただけかも知れないけれど)。それから時の踊りの最後の方、コレーラのフェッテの所のティンパニが2回ズレた。確かにあそこは低音の弦と一緒に妙なリズムを刻むところだが、あそこまでズレると踊ってる方はリズムが狂うんじゃないかしら。
バルナバ役のスグラ、前回同様完璧な極悪非道の悪役。
強めのヴィブラートのかかった特徴のある声で、こういう声は苦手な人がいるかも知れない。シナリオ上ずっと同じ黒々とした感情を抱き続けている役なので演技上の変化がつけづらく、演技派のソリストだったら面白くない役だろう。
ラウラ役のボチャロヴァは前回に比べると数段落ちるパフォーマンス。
声に密度がなく、上がり下がりの激しいパーティションについていくのに苦労しているようだった。低音部で胸声になるとそこだけ貼りつけたような声になり、レガート感がぷっつりと切れる。



前回不調と事前にアナウンスのあったウルマナ、今回は好調でなにより。
彼女の問題といつも言われる"les aigus arrachés"も気になるほどではない。ウルマナの歌唱を聴くばあい、それを気にするよりも彼女の中音域の美しさとしっかり支えのある低音をアプリシエートするべきだと思う。
最終日とあってか役にすっかり馴染んで入り込んでいたようで、特に引き立てられていくエンゾを見送るところからがすごかった。バスティーユの広い舞台を完全に自分の空間としている。エンゾのために恋敵を助け、すすんで悪漢バルナバの餌食になろうとする彼女の苦悩と絶望感がそれはもうヒシヒシと伝わってくる。
そして"Suicido!"の後の彼女の声の美しさといったら!ツヤが増したというか、まったくストレスのない、ノーブルでのびやかな、聴衆をサテンの布で包むようなジェネラスな歌唱。
心配していたアルヴァレスも出だしこそ慎重だったがまずまずの滑り出し。
それでもやはり"Cielo e mar!"までは気がかりだったように見受けられた。このアリアを完璧に歌い上げたあとは自信を取り戻したらしくドライブ感よく歌っていた。アルヴァレスはこのアリアの出来にかなり満足したようで、歌い終わった直後にオレンに向かって「ありがとう!」のジェスチャーをしていた。やはり指揮者とのコンプリシテが大事なのだろう。
前回ウルマナ同様に不調とアナウンスのあったアルヴィーゼ役のアナスタソフ、彼はああいうキャラクターなんだろうか、それともこの役が彼のキャラクターに合っていないのだろうか。
全く役としての個性が見えない。ただ演出の指示に従って動き、歌っているだけという印象。不調だった前回との違いは見られなかった。前回は何が不調だったのだろう?
時の踊り、コレーラのフェッテが前回に増してすごい。あんなに高速の回転の途中でジャンプしてましたよ。あんなことできるんだ!とビックリ。フェッテの途中から拍手がおきて、バレエの公演のよう。最後は会場は拍手の嵐。
第3幕の最後はソリスト全員とコーラスの合唱になるが、この迫力がまた圧倒的で。
正面からグワーンと押されているような気分になった。この席はプルミエバルコンの最前列中央で、舞台を観るのにストレスがないのはもちろんオーケストラの音がいいし、合唱の迫力を体感するのに最適の席。
コーラスは舞台裏でも歌って活躍するのに、最後のカーテンコールに出てこなくて残念(終演時間が遅いからだろう)。
ふり返ってみるとこのオペラのソリストはタイトルロールだけでなく、みんな渾身のアリアばかりで気を抜けるところがない。加えてこれらのアリアは易々と歌えるような代物でもない。これが上演される機会が少ない理由だろうが、来々シーズンにでもまた再演して欲しい。

グレーをベースにしたセットに、衣裳に使われる赤をポイントカラーに巧みに入れてシンプルな美しいセノグラフィ。赤以外の鮮やかな色が現れるのは「時の踊り」の時だけで、マルチカラーの衣裳が音楽と共に舞台上の雰囲気をガラリと変える。舞台造りは横長ではなくて奥に深いという事実をはっきりと示すもので、3本の運河と手前の2つの運河にかかる橋のみでシンプルにヴェネチアを表している(もちろんゴンドラも)。難点は大勢が移動するときに足音がうるさいこと。床と靴底の素材の相性を考えなかったのだろうか?


1er BALCON 1 2-4

2013/05/26

Giulio Cesare /ジュリオ・チェーザレ② @Palais Garnier

舞台はエジプトのカイロにあると思われる博物館の倉庫。
所蔵品を管理する現代人の世界とオペラの登場人物の世界がそれぞれ別個に描かれ、
時々2つの世界がクロスオーバーすることもあるという面白い演出。



今日のザッゾは何かいいコトでもあったのか、バイタリティ溢れる絶好調の歌唱。
わりとスロースターター気味のザッゾだが今日は最初からバシッと聴かせてくれる。特に"Aure, deh, per pietà"のアリアの力強さと繊細さの絶妙なブレンドといったら!アリアを聴きながら身体から余分な力がスーッと抜けて心がフワーッと浮き上がっていくような気分になるというのは、そうそうあることではない。
"Se in fiorito ameno prato"は鳥のさえずりのメロディーを奏でるバイオリンと絡むアリアだが、ここで歌唱とバイオリンが驚くほどピッタリ合っていて、リディア(実はクレオパトラ)の許に行ける心の高揚感と幸福感がそのまま伝わってくるよう。ザッゾ自身、かなり満足だったようで、アリアの後で舞台後方に下がる前にバイオリニストに投げキスしてましたから(笑)!

クレオパトラのピオは今日もよくコントロールの利いた、かつエモーショナルな歌唱で観客を魅了していた。ドゥセのように存在に華のある知名度の高いスターではないが、ピオはなによりも声自体に華があり、歌唱で観客をひきつける魅力がある。特に"Piangerò la sorte mia"の切々とした歌唱は回り道せずにダイレクトに胸に沁みてくる。
デュモーがひょっとしたら本調子じゃなかったかも。声をセーブしていたように聞こえたし、第2幕の最後の方で音程のコントロールがうまくいってなかったような気がする。第3幕はかなり持ち直していたと思うけれど…。
アブラアミアン(って読むのかしら?)の声は悲哀と涙でできているような声で、コーネリア役にピッタリ。悲嘆にくれた演技も、見ていて気の毒になるくらい真に迫っている。ただひとつ奇妙に感じることは、演出の指定だと思われるが、夫の敵トロメオを刺殺した後、笑い上戸の酔っぱらいのようになってしまうこと。あれは何回観ても違和感がある。
そうそう、アキッラのことを忘れていた。このバリトンが舞台上唯一の男声でスパイスを利かせている。背が高くてガッシリした体型で、将軍役がよくあっている。そしてブリュットで直情型なアキッラを歌唱と演技両方でとても巧みに表している。コーネリアに武骨に言い寄ってふられて自棄になって下がるところなど本当に上手。

2011年、ドゥセがクレオパトラだった時のチェーザレを聴いているが、このパフォーマンスがDVDとなって残り、前回より好調と言えるザッゾの、そして何よりピオのあの歌唱がフランス・ミュージックで放送されることもなく、記憶の中にしか残らないというのがどうにも理不尽に思われる。


BALCON 96-98

2013/05/23

Giulio Cesare /ジュリオ・チェーザレ① @Palais Garnier



ピオのクレオパトラが秀逸のパフォーマンス。
艶のある高音にまったく力みがなく、その高音部に移る際に「よっこらしょ」と階段を一段上るようなギアチェンジのない滑らかさが聴いていて心地よい。
ドゥセのクレオパトラを念頭に作られた演出をドゥセを真似て過剰に演じることをしなかったのは賢明な選択だったと思う。演技にとらわれないエモーショナルな歌唱が強く印象に残っている。
チェーザレ役にはザッゾの声以外考えられない私。彼が歌い出した瞬間、あぁやっぱりこの声でないと…、と再認識。出だしこそ「ん?ちょっと抑えめのスタート?歯切れよくない?」と訝ったものの、それは最初のうちだけ。 "Va tacito e nascosto" を聴いて完全に至福感に満たされる。
彼の声は他の歌い手の声とはまったく違う心の部分に触れてきて、その感覚を言葉や文章にする術を今のところワタシは持ち合わせていない。
それからやっぱりデュモー。彼が一心同体としか思えないトロメオの役でここにいるかいないかは、このプロダクションの鍵である。
この役をさまざまな演出で歌っているにも関わらず、妙に慣れたおざなりなパフォーマンスをしないところが更によい。
そしてやっぱりあの声、バロック界の宝のひとつである。
クリアで密度が高くソリッドなのに表面にうっすらと柔らかさを感じさせるところが色気を感じさせる彼の声の秘密かもしれない。でもこの役ばかりで飽きてしまっていないかちょっと心配でもあり…。
このシリーズのウィークポイント(それもかなり大きな)、セスト役のデエ。
クリアな声とすこしくぐもった声が1フレーズの中で混ざってとても聞きづらい。
バロックに挑戦するのは初めてかしら?それとも不得意科目かしら?音が上下するところもガタガタだし、低音は出ないし…。他のソリストがバロックを得意としている分、彼女の弱さと不安定さが余計目立った。
やはりバロックオペラ好きだなー、と改めて感じたジュリオ・チェーザレのプルミエールだった。


EMMANUELLE HAÏM  Direction musicale
LAURENT  PELLY  Mise en scène et costumes
ALEJANDRO STADLER  Réalisation de la mise en scène
CHANTAL TOMAS  Décors
AGATHE MÉLINAND  Dramaturgie et collaboration à la mise en scène
JOËL ADAM  Lumières
BÉATRICE MALLERET  Chef de Chœur

ORCHESTRE ET CHŒUR DU CONCERT D'ASTRÉE

LAWRENCE ZAZZO  Giulio Cesare
VARDUHI ABRAHAMYAN  Cornelia
KARINE DESHAYES  Sesto
SANDRINE PIAU  Cleopatra
CHRISTOPHE DUMAUX  Tolomeo
PAUL GAY  Achilla
DOMINIQUE VISSE  Nireno
JEAN-GABRIEL SAINT-MARTIN Curio



81S

2013/05/20

La Gioconda/ラ・ジョコンダ① @Opéra Bastille



La Gioconda素晴らしかった。全く知らないオペラだったけれど(時の踊りがこのオペラからの抜粋だったとは予習中に知った)、これほど心動かされるものだったとは…!
開演前に舞台監督(多分)がカーテン前に出てきて「ウルマナとアナスタソフは体調がよくありませんが、今夜の出演を了解してくれました。」とアナウンス。客席はドヨドヨ…私は昨年末のカルメンでのシューコフ(ドン・ジョゼ)に同じアナウンスがあって実際ヨロヨロのパフォーマンスだったことが頭をよぎった。
結果的にはウルマナはやはり最高音の方で「ヒャー!」とこちらが首をすくめたくなるような声になってしまったけれども、彼女本来の音域は不調を感じさせる歌唱にはならなかったので安心した。でもウルマナはもともとそれほど高音が美しくない、というか音が上がるにしたがって声のボリュームが先細りになり、最後には彼女の身体からは想像もできないような薄っぺらい声になってしまうきらいがあるので、それに体調不良が加わったのではこのようなパフォーマンスになるのは仕方のないことだろう。一方アナスタソフは終わりが近づくにしたがって疲れが増してかなりクタクタだったようだ。最初からきちんと歌うことにまず意識を集中していた様子で、演技に心を配るまでには至れなかったと思われる。
美しいメロディーに満ちたこのオペラが今までONPのレペルトワールに入っていなかったというのが不思議でならないが、ジョコンダ役が超難関で歌おうとするソプラノがいなかったのかもしれない。高音だけでなくメッツォもめったに出さないような低音で歌う部分もあって、音域の広さと声の強靭さが要求される難役だろう。
メッツォと言ったらもう、ジョコンダの母親チエカ役のモンティエルの素晴らしいこと。透明感と質感を兼ねそなえた美しい声はもちろん、命を救われてローラに感謝する "Voce di donna o d'angelo" のあの歌唱…。泣けて仕方がなかったが、クリネックスもハンカチも足元に置いたバッグの奥底。手のひらで押さえたりしたのでひどい顔になっていたな、きっと。
このアリアに限らず、腕や背中がゾクゾクッとするような、本当に素晴らしいメロディーが目白押しで並んでいる。オーケストラも初めての作品で大変だったに違いないが、オレンの指揮によくついていっていた。(カーテンコールでオレンにブーイングする人がいたが、これだけの仕上がりに何を文句を言うことがあるだろうか!)
アルヴァレスは快調なようで、実際そうかどうかは別としてすべてのアリアを楽々と歌っているようだった(いつもの通り、眉間にシワをよせたちょっと困ったような表情で)。いいテノールだと思うけれど、いまひとつ役にのめり込めない人?という印象を受ける。これとアンドレア・シェニエしか観たことないので何とも言えないけれど。悪人役はどうだろう。マントヴァ公とか。
ストーリーとしてはジョコンダとエンゾのカップルとジョコンダに横恋慕する極悪非情のバルナバ、エンゾの元GFローラ(アルヴィーゼの妻)の四角関係に途中からアルヴィーゼも加わったドロドロの愛憎劇。これが夢のように美しいメロディーにのって繰り広げられる不思議。
放火もあり!
ロミジュリのような服毒芝居あり、自殺あり、他殺あり、もうほとんど救いのない(エンゾとローラは逃げ果せるが)ストーリーなのに観ていてまったく陰鬱な心持ちにならないのは、音楽が地を這うようなおどろおどろしいものではないから。完全に悲劇的な歌詞を、いたって明るい軽妙なメロディーにのせて歌うのも難しいことじゃないだろうか。これも練習するうちに慣れるのかしら…?

そして時の踊りのバレエ!これはちょっとお口直しにバレエをどうぞ、みたいなオマケとはちょっとワケが違う。アルヴィーゼ主催のパーティーの余興として披露されるものだけれど、片手間にくっつけたとは思えないしっかりとしたバレエだった。特にコレグラフィが抜群に素晴らしかったということではないけれど、Angel Corellaというダンサーのプレゼンスがすごい。あのパも簡単ではないし、ピルエットのスピードと正確さには驚くばかり。バレエの最後の拍手がものすごかった。
それまで(いい意味で)ジョコンダの醸し出す世界にユラユラと酔っていたのが、舞台の色合いもあってサッと目覚めるとともに、舞台進行がギューッと引き締められて再終幕まで飽きさせずに見せる、という感じ。ポダリデス演出のブルジョワ・ジョンティオムを観た時にも思ったが、バレエがオペラや劇に与える効果は(もちろんそのバレエの質によるが)計り知れないものがあると改めて感じた。
ぜひもう1度観たいので、さっそく最終日の席を手配しなければと急いだが、ラ・ジョコンダの最終日はONPのサイト上では今のところコンプレである。1週間前になったら戻りチケットがあるかもしれない。今週の木曜日と日曜日の公演もあるけれど、ガルニエのジュリオ・チェーザレの公演と重なっているので行けない。最終日のラ・ジョコンダ、とれるかどうかいちおうお願いを出しておくことにする。


DANIEL OREN  Direction musical
PIER LUIGI PIZZI  Mise en scène, décors et costumes
SERGIO ROSSI  Lumières
GHEORGHE IANCU  Chorégraphie

VIOLETA URMANA  La Gioconda
ELENA BOCHAROVA  Laura Adorno
ORLIN ANASTASSOV  Alvise Badoero
MARIA JOSÉ MONTIEL  La Cieca
MARCELO ALVAREZ  Enzo Grimaldo
CLAUDIO SGURA  Barnaba

LETIZIA GIULIANI, ANGEL CORELLA  Solistes de la Danse des heures


1ER BALCON 3 36-38

(5月24日:アルヴァレス調子悪いのかしらん。月曜日はあんなに好調だったのに、木曜日は体調のせいか途中から急遽代役が立ったらしい。残りの日程キャンセルなどということにならなければいいけれど、心配だわ。)