2014/04/29

Tristan und Isolde / トリスタンとイゾルデ ②


本当は前回(金曜日)の公演も観たかったが既にプレイエルでのマーラーNo.9の席をとってあったので今日が2回目(次回が最終公演)のトリスタンとイゾルデ。
初日から3週間、その間にソリストのディレクションのおさらいがあったのだろうか、モヤモヤしていた動きが大きくはっきりとしたように見える。それでもやっぱりメロートがトリスタンを刺すシーン(イゾルデに右腕、マルケ王に左腕を抱えられているトリスタンをメロートが背後から刺す)の意味は理解できない。

第1幕でのウルマナの圧倒的な迫力。Fluch dir, Verruchter! Fluch deinem Haupt! Rache! Tod! Tod uns beiden! の部分、イゾルデの怒りで舞台の空間がビリビリと膨張してバルコンで圧迫感を感じるような歌唱。ラ・ジョコンダの最終日の素晴らしいパフォーマンスを思い出して「まさか今日が最終日と勘違いしてないでしょうね?」と疑ってしまったほど。

初日にはサービスミニマムだったRDSが「あのー、同じテノールの方ですか?」と尋ねたくなるほど、別人のように良くなっていた。ノーブルに響く声にしなやかな芯があってトリスタンのシュヴァリエとしての心持ちが伝わってくるし、マルケ王への忠誠心とイゾルデへの愛の間で悩み疲れた様子もうかがえる。
彼の声には結果的にシュヴァリエとしての忠誠心に逆らってイゾルデとの愛を選んだ歓びだけではなく、それを悔やむような、心の内では常に涙しているような、一種の弱さを感じさせて胸に迫るものがある。それが夜の闇を求め、死を思い極めるトリスタンのキャラクターに深みを与えていると感じた。
このあたりは初日にはまったく見えなかったところなので今回発見できて嬉しい。
初日1回だけしか観ずにいたら「やっぱりトリスタンとイゾルデって金太郎飴オペラだわー」で終わっていただろう。

初日にブレスリクを聴けたのはとてもラッキーだったと思う。新しい代役氏は声に魅力がなくて残念。この役の最初の歌唱がが美しいとサーッと海上の雰囲気が広がるのだが、代役氏は一生懸命に(いや歌いづらそうな歌を音楽なしで歌わなきゃならないので難しいのだとは思うが)ただ歌っていただけだったし。

オーケストラはピットに入れておくのが惜しいほど、透明な煌めきのある響きとスケールの大きなうねり。それぞれのパートの音が絡み撚り合うが、聞きづらく縺れることがない。休符のとり方で一瞬ハッとさせるのはリングでもそうだったジョルダンだが、テンポやリズムが変わってもテンションは切れず、聴く方の集中力をそらさないので最後の音に行きつくまでがあっという間だ。
透明な水を思わせる弦の音がヴィデオとよくマッチする。その水は絶えず寄せては返す波となってさまざまな場面で浮き上がる。そのみずみずしさの中でチェロにほんの少し乾いた音色が混ざって寂寥感を感じられるのが印象的。寂寥感につながる荒涼とした風景、常に底にあるのは生を諦めたトリスタンの心か。
第2幕の前奏曲、再会の喜びにあふれるメロディーによりそって走る暗い陰が時々浮き島のように姿を表してこの喜びと切り離すことのできない運命を感じさせる。ここで2人の行く末をはっきりと示して語るオーケストラ(と言うかこれはワグナーのパーティションのなせる技なわけだけれども)!

でも第2幕のTIのデュオの部分(半分まではいかないが1/3くらいまで)はオケが鳴らし過ぎじゃないかと気になった。前回はパーテールの中央後方で聴いていてそれほど感じなかったが、バルコン1列目少しジャルダン側(No.33)ではオケの音が凄まじい。この部分はソリスト2人とも抑え気味のようなので余計に気になる。弱音の部分の美しさなどため息モノなんだから、あそこまで鳴らさなくても(特にソリストが歌っているときは)いいんじゃないかと思うのよねぇ。オケがガーンと行きたい気持ちは解らないでもないが

とにかくオケが雄弁に語るので、ソリストは存在感のあるパフォーマンスをみせないと太刀打ちするのは難しい。さもないと初日のRDSのように何の印象も残せないどころか「色褪せたパフォーマンス」の烙印をおされてしまう。
本当にオーケストラはこの3年ほどで驚くべき飛躍。今も思い出すのはどうしようもなく退屈なフィガロの結婚や全然まとまりのないロメオとジュリエット(バレエ/ヌレエフ版)…。当時、こんなに素晴らしいパフォーマンスをONPで聴けるとは到底想像できなかった。

*最近気づいたけれど、第3幕でトリスタンが歌う …erjag' ich mir heut Isolden!  Heia, mein Blut! Lustig nun fliesse! あたりの音楽はエレクトラが狂喜して踊るシーンの音楽と似ている。

*階段を降りながらイゾルデの愛の死を口ずさんでいるオジサンが何人もいて微笑ましかった(笑)。




DIETMAR KERSCHBAUM  Ein Hirt / Ein Junger Seemann

PREMIER BALCON 1-33