2014/04/08

Tristan und Isolde / トリスタンとイゾルデ (Première) ① @Opéra Bastille

©Charles Duprat/ONP


羊飼いと水夫、ブレスリクが歌うということは…マルケ王はゼーリヒだし(これは元から)、魔笛コンビだわと思ったが、指揮はジョルダンなので今も公演が続いている魔笛トリオとなった初日のトリスタンとイゾルデ。ここでもブレスリクが聴けるとは思ってもいなかった幸運。

実はトリスタンとイゾルデ、どこに狙いを定めていいのか判らないし、どこを切っても同じ金太郎飴みたいなオペラだという印象を拭いきれない。いざ、モルフェの腕の中へ…!という気分でバスティーユへ向かった。
このトリスタンとイゾルデは先日亡くなったジェラール・モルティエの遺産。開演前にニコラ・ジョエルが追悼の辞を述べ、1分間の黙祷があった。

オケbyジョルダン、流麗でみずみずしいのは良いが、もう少しピリッとしたところがあればいいのに(第1幕直後のツイート)。あとアレだ、色気が足りないと思う。ちょっと真面目過ぎる感じなので(ひどい言い方をすれば、ラジオ体操のようなリズムで至極健康的に聞こえる)、もっと危うい、もっと刹那的な雰囲気を漂わせないとトリスタンとイゾルデにならない…!

ヴィオラの不思議ヴィデオ…私が困ったのはまず第1幕で顔を水につけるところで息苦しさを感じること、次に第2幕、アップでノイズが多くて何だかよく分からないものが際限なくモゾモゾ動く映像で「これ何だろう?」と気が散ってしまったこと。でも第三幕の水と火のシーンや逆回しで昇天していくイメージは音楽ととけあうようで本当に美しい。

マルケ王が愛していたのはトリスタンだったのか!!!!!こういう解釈をした演出は他にもあるのかしら?確かにリヴレを読むとトリスタンがマルケ王の恋人だったとしても全くおかしくない台詞であることが分かる。
ゼーリヒの驚愕と悲哀がこもった歌唱が素晴らしくてギューンとひきこまれ、”Mir dies?”の後は呆然としてしまうほど。

一方ディーンスミスのキャラクターなし感は特筆すべき。第3幕に備えて体力温存かと思いきや、残念なことに結局サービスミニマムに終わった。ただただパーティションをさらっていただけの印象。彼のパフォーマンスには力強さもエモーションもなかった。
それにくらべてウルマナの見事なこと!多分昨夏のプロムスでイゾルデを歌った時より調子がいい。最高音の方はちょっと無理矢理な感じがするけれど中音から高音にかけてのテシチュールは、イゾルデって実際こういう声だったんだワと納得してしまうような美しさ。トリスタンとの乖離が大きく、デュオとして絡み合って伝わってくるものがほとんどないのは残念。

歌唱でしっかり演じていたのがクルヴェナルのシュメッケンベッハー。第1幕ではイゾルデとブランゲーネを見下す粗野な面を、第3幕では主(かつ友)であるトリスタンを思い、心配し、焦る様子を歌唱だけであれだけ表せるんだなあと。

そしてブランゲーネのヤニナ・ベヒレの温かみのある声はイゾルデを優しく抱くように響いてイゾルデの侍女というより乳母のような印象を持った。第2幕の見張りの歌の美しさは月の映像とマッチして素晴らしい。これを左側のギャルリーで歌うのが空間の広がりを与えるとともに舞台上の2人の濃密さを増すように感じられる。
他にも第1幕では水夫のコーラスは右側ギャルリー後ろの廊下に、マルケ王登場時のコーラスはパーテール後ろの通路に(これをほぼ中央で聴いたのでものすごい爆音だった!)、第3幕の羊飼いやコールアングレなどもギャルリーを使っていた。

ソリストのディレクションはあってないようなもので、コンサートバージョンのように見えるこの演出で、ソリスト達は歌唱でどこまで役者になれるかの力量も試されていた感じがする。このために少し気になったのが、ソリスト達が曖昧な動きをする中でゼーリヒの演技が際立ってはっきりしていること。いい意味でアクセントになったと見ることもできるが、あれ以上際立つと過剰になってしまうだろう。

オケは第2幕第3幕とすすむにつれて、ラジオ体操感は消えて陶酔感のようなものが現れてきた。特に第3幕の前奏曲は「こんな音楽に誘われたらそりゃ夜の世界に行っちゃいたくなるわー」と思わせる。これから公演回数が進むにしたがってどんな風に熟していくかとても楽しみ。
いちばん拍手が大きかったのがジョルダン、次点がゼーリヒとウルマナ。演出グループから2人出てきたけどブーイングだった。このプロダクションはもう4回目なのに何故今更ブーイングするのか謎…。
カーテンコールが終わって外に出たらもう23時30分だった。久々の長丁場でしたな。

PHILIPPE JORDAN  Direction musicale
PETER SELLARS  Mise en scène
BILL VIOLA  Création vidéo
MARTIN PAKLEDINAZ  Costumes
JAMES F. INGALLS  Eclairages

ROBERT DEAN SMITH  Tristan
FRANZ-JOSEF SELIG  König Marke
VIOLETA URMANA  Isolde
JOCHEN SCHMECKENBECHER  Kurwenal
JANINA BAECHLE  Brangäne
RAIMUND NOLTE  Melot
PAVOL BRESLIK  Ein Hirt / Ein Junger Seemann
PIOTR KUMON  Ein Steuermann