2014/04/21

Parsifal / パルジファル @Wiener Staasoper


流れる音楽を両腕で大切に抱いているようなウェルザーメストの指揮。
その指揮に整ったオーケストラの音が軽やかに従っていく(もったいぶった重々しさやこれ見よがしなドライブ感は皆無)。昨日と同じオペラ座に属しているオーケストラとは思えない、実際のところ同じメンバーではないのかもしれないが、指揮者とオーケストラのコンプリシテが感じられる。
音がスッとたち昇ると同時にサーッとホール全体に広がる、というよりホール内にとどまらずに水の流れのように素直に広がっていく印象を受ける。
青みがかった澄んだ銀色を思わせる音色。コントラバスの音までがハッとするほど美しく聞こえ、ひどく感心してしまった。
パルジファルにはもうすこしドロリとした感じや暗い陰のようなニュアンスが濃くても良いかなと思うが、それをしたらウェルザーメストとオーケストラの作り上げる音楽が失われてしまうだろう。盛り上げ方やテンポのとり方など舞台と無理なくあっていて(音楽を舞台に無理強いすることがない)流石だなと感じる。作品のラインを無理に歪めず破綻させないのが彼らのスタイルなのだろう。

まずパルジファルのボータ。今更丸過ぎるなどと言っても仕方ないけれど、METのカウフマンのDVDを観た後にはツラいものがある。第3幕の衣裳をつけると上半身はまるで黒いカナブンのようで、ドン・カルロのサルトーリを思い出してしまった。あれでは第2幕で花の乙女たちが「まぁ♡」なんて誘惑しませんって(笑)。ま、それはさておき、彼はもうパルジファルの場数を多く踏んで慣れちゃっているんでしょうかね。毎回出だしこそ良いものの、すぐに歌い流すような歌唱になってしまってあまり感心できない。これでは感情も、ストーリーさえも聴く側に伝わらない。例えば第2幕でアンフォルタスの傷に思い至って自分の「ここ、ここが!(血を流している)」というところがあるが、「どこなのよ?」「で、そこが何なの?」と尋ねたくなるような歌い方なのだ。
イノセントな愚か者が共苦に開眼して救済者への方向性が表れるという作品のターニングポイントとなる最も重要なシーンなのに、とてもじゃないがそのようなシーンを歌っているようには見えない。
他のシーンも大体同じようなことなのであの体型以外の印象が薄いなんて、パワーのある良い声を持っているのだから、もったいない。

グルネマンツのローズ。カプリッチオやシュヴァリエ・ア・ラ・ローズのコミックな役で大いに楽しませてくれた彼がどのようなグルネマンツになるか楽しみだったが、期待に反して彼のパフォーマンスはあまり納得のいくものではなかった。
というのは、まずキャラクター的に聖杯守護のシュヴァリエとしてはやはり俗っぽさが過ぎる感じがする。登場シーンが長椅子に緊張感なく横になっていることを見ると演出側の要求なのだろうが、それがローズのキャラクターと相まってtoo muchなことになってしまったのではないか。

第2幕では登場しないとはいえ第1幕と第3幕でのグルネマンツはまるで主役のように歌い続けるから、パワーとそれを持続するエネルギーが必要。今のローズは体力不足なのではないだろうか。第1幕では安定した歌唱だったが、第3幕になると明らかに疲れが見え、フラゼはブツ切りの上、ブレスがギリギリなのか終わりを投げつけるように歌っていて聞きづらいし、グルネマンツはこういう歌い方の役柄ではないと思う…。この日は風邪気味とかで調子が悪かったのかもしれない。というのも第3幕で頻繁に舞台と袖を行ったり来たりしていたから。あの意味のない往復は演出だとはちょっと考えられない。

アンフォルタスのゲルネはアンフォルタス役によくあったノーブルな響きの声。その声にひと刷毛セクシーな色が混ざっているので怪我で弱っている風情に気の毒さが増すというおまけつき。やっぱりソリストと役の組み合わせ(相性)って大事だわー。演技が少し元気過ぎる(もう死んじゃいたいほど苦しんでいるのに)のが気になるけれど、それは演出側の要求かも知れないし他のソリストで観ていないので何とも言いがたい。

クンドリーのマイヤー、ソリストのなかでは歌唱、演技ともに際立っていて引き込まれる。ソバージュではなく、救いを求めてあてもなく彷徨うひとりの人間としての表現に無理がない。作品のキーパーソンだがちょっと変わったキャラクターの役だし、奇を衒うとまったく嘘っぽくなると言うか後から取ってつけたような役に見えてしまうが、彼女の場合それがないどころかさらに真実味が加わる(これはエレクトラの時も感じた)。それから場面ごとの声のバランスがとても理にかなっているので、ストーリーに与える音楽的な効果が増すのだと思った。
それから、バスティーユの箱だと彼女の良さが2割減だったなと今回理解した。もしかしたら他のソリストでも多少そういうことがあるのかも知れない…。

(演出について書こうかどうしようかは迷っているところ。というのも今思い返してみても「ここはよかったな」と感じられるところがないので。)

Dirigent    Franz Welser-Möst
Regie    Christine Mielitz

Amfortas    Matthias Goerne
Titurel    Andreas Hörl
Gurnemanz    Peter Rose
Parsifal    Johan Botha
Klingsor    Boaz Daniel
Kundry    Waltraud Meier


Mittelloge 1 6-7