2013/02/10

Das Rheingold/L'Or du Rhin /ラインの黄金 ①(2013年2月10日)


日本から戻った時差ボケが一気に出たのか昨夜充分すぎるほど眠ったのにまだモルフェの腕から抜け出せないずにボンヤリしている。マチネのDas Rheingoldで昼寝をしかねないなどと思いながら出かけたが、幸いなことにそれは杞憂に終わった。




モダンな舞台装置にキッチュな衣裳。男神たちは白いスーツ姿、その横で女神は上半身裸のように見えるビュスチエを着けてロングスカート、特に時代の設定はされていないが、雰囲気としては統一感が感じられる。ファゾルトとファフナー率いる巨人たちはコマンド風労働組合員である。彼らの衣裳はBrazilの修理屋デ・ニーロの衣裳に見えて仕方がない(パリアッチだったり未来都市ブラジルだったり…!笑)。





そしてヴォータンがヴァルハル建設の報酬の約束を守るつもりがないと分かると、こんなビラが客席に降ってくるわけですよ。旦那って何、旦那って?!この赤いビラが大量に場内を舞うので集中力が途切れる上に奇妙な日本語、この演出には大いに疑問を感じる。






ローゲが薄汚れたピエロ風の衣裳に既に崩れたピエロ風のメーク(パリアッチに見えて仕方がない)でヴァルハルの神々とは少し毛色が違うことを表している。頭の回転が速く狡猾とも見える無責任なお喋りのローゲというキャラクターによく合った声と演技、見た目はさておき役柄に合った歌唱としては今日は彼が一番だったように感じる。
一方ヴォータン役のTJマイヤーの声は残念なことに完全にオーケストラの向こう側にとどまったまま。プルミエバルコンの2列目で聞こえづらい歌唱というのはやはり声量不足であろう。あるいは不調だったのかも知れない。そしてヴォータンは神々の長なのだから、巨人を騙そうとしたり指輪を強奪したりするにしてもそれなりの品格を漂わせることが必要だと思うが、素肌に黒いジレ+白いスーツなんて安っぽいマフィアみたいな衣裳を着せられている上に佇まいも極普通で、見た目の説得力にも欠ける。が、これは演出家が「神々の長と言ってもこの程度のもの。間もなく終焉を迎えるのも当然だ。」というのを示したいのかなと思わなくもない。だとしたら大成功ということになる。
フローとドンナーはどうしようもなくオマケっぽい、と言うか取って付けたような感じなのはシナリオがそうなんだから仕方ないけれど…。演出家も困っちゃうんじゃないかな、こういう役は。そしてこの神々が40〜50cmの高さにしつらえられた舞台の縁にテレッとすわっているのにも違和感が。体操の選手が順番を待ってるみたいに見える。(演出家の指示を待っているのか?!)
赤い紐にがんじがらめにされたディスク状の地球が降りてくるが、これが他の装置に比べて格段にシャビー。どうせならラインの黄金のオルタナティブになるように球体にすればよかったのに…。

この巨大な階段のセットはヴァルハルを象徴的に表すものとしていいチョイスだと思う。イメージとしてヴァルハルのみにとどまらないからである。
どうしてももう1人のヴォータンを聴きたいので、最終日(12日)に観に行くことにした。ついでに来週のワルキューレの席も予習のつもりで手配する(ワグネリアンというわけでもないのだが…)。それほどワグナー好きじゃないならその分チェザーレに回せばいいのにと自分でも思うけど、それができれば苦労はない!目の前のこのキャストではこれが最後かもしれないと思うと、疑問を抱いたままそれを逃したくない。チェーザレがもっと観たくなったら、それはその時に何とかするのだ。
シリンズのヴォータンを聴きたいのもあるが、もうひとつ理由があって、それは今日気にかかったジョルダンの指揮。オーケストラの音は美しいし流れるようにうまくまとめてあるのだが、いまひとつカーンと心に響いてこない。私をカルメンに通わせたあの爽快な煌めきも感じられないのが不思議でならない。それがひっかかっていて来週のラ・ヴァルキリーも追加したというわけ。