2014/01/03

La Traviata / ラ・トラヴィアータ @Bayerische Staatsoper, Nationaltheater


黒い壁、そこにひとつ開いたドア、敷き詰められた色とりどりの枯葉既視感ありのセノグラフィ。これはジークフリートと同時期の作品かしらー? でも雰囲気は全然違うラ・トラヴィアータなところが面白い。黒い壁にはいくつものドアがあり、第1幕のヴィオレッタ宅の一部として開けたり閉めたりして使われるのだが、ジークフリート時のようにたった1つだけ開けて使われる事も多い。また紗のように透けて見える黒いスクリーンも使われている。両者とも積極的にアヴァン・セーンをメインに使う演出に欠かせないセットの一部である。
第2幕の田舎暮らしのシーンでブランコやシーソーが現れた時には「セルバンのルチア?!」と思った。ここでは舞台全体が庭のように使われるが下手手前には壁とドア、舞台奥に紗のスクリーンがあり、登場人物がその後ろに開いた部分から出入りするようになっている。
続くフローラ宅のソワレではジプシーも闘牛士も出てこなくて、招待客(コーラス)が歌いながらカードマジックみたいなのを披露(真ん中の人は本当のマジシャンだったと思う)。舞台左方に大きなシャンデリアが下がっている。
中央少し奥に壁があり、ドアの向こうはディナーのための部屋。
この劇場は舞台脇にスペースがないので場面転換が制約され、セノグラフィ造りに工夫が必要だろうなと思う。
第3幕ではヴィオレッタが臥したベッド(マットレス)は舞台手前の端ギリギリに置かれている。少し後ろに紗の黒いスクリーンがあり、スクリーンの左の方がドア程度の大きさに切り抜かれている。カーニヴァルの人々はこの後ろからヴィオレッタに迫るし、パパジェルモンもこちら側に置かれた椅子に座り、アンニーナと医師もこちらが定位置で、ヴィオレッタとの乖離感(ヴィオレッタの孤独)を表しているように見える。スクリーンの後ろ、舞台下手にはフローラ宅に下がっていたシャンデリアが床に落ちて転がっている。

ヴィオレッタのペレスもアルフレッドのマグリも声高らかにスルスルと歌ってそこそこ演技も良いのに、何故か心に迫ってくるものがない。それどころか音楽とそれを聴きたいワタシの間に立ちはだかっているような気配を感じたりする。不思議だった。それは彼らのせいではなく、私自身ラ・トラヴィアータにそれほど惹かれる物を感じないからかもしれない。チョーフィやドゥセのパフォーマンスを素晴らしいと思って観るがメロディーや歌唱が心にスッと沁みてくる感覚はないので、おそらくそういうことだろう。

ペレスは"Sempre libera"の最後の方で声の密度が急降下して(イメージとしては乾燥麩のような声)歌いきれるか心配になったが、すぐにアントラクトに入ったのでそこでしっかりと持ち直したらしく、その後はほぼ危なげなく歌い切った。既に歌い慣れて役どころをつかんでいるように見受けられた。

アルフレッド役は最初のキャスティングではカストロノーヴォだったが、いつの間にかマグリに変更になっていたのよね。シラグーサみたいに何の引っかかりもなく陽光に輝く声がカーンと出てくるかと思うと、コルチャクみたいに力で押すような声を出すことも。ずっと力まずに歌ってくださーい。でもディクションがよく聴きやすいアルフレッドだった(やはりイタリアものはイタリア人がいいね)。

ハンプソンのパパジェルモンについた演出が面白い。アルフレッドの婚約者(候補)を連れてくるのだが、まるで自分の若い愛人を息子にくっつけたいように見えて笑える。その気がないどころか嫌がるアルフレッドと、彼に邪険に扱われて機嫌を損ねる若い女の子の間にはさまれてオロオロと右往左往する姿も面白い。ヴィオレッタの説得も手っ取り早く済ませたい様子がありありと見えるし、役者なハンプソンによく合った演出と思った。


そしてこのクレーマーの演出ではヴィオレッタは死んだかどうか明確に示されない。舞台奥に開いたドア(多分)から強い光が射していて、その光に向かって歩いて行き、途中で幕がおりる。カーセンのホフマン物語みたいね。


Musikalische Leitung  Paolo Carignani
Inszenierung  Günter Krämer
Bühne  Andreas Reinhardt
Kostüme  Carlo Diappi
Licht  Wolfgang Göbbel
Chor  Sören Eckhoff

Violetta Valéry  Ailyn Pérez
Flora Bervoix  Tara Erraught
Annina  Rachael Wilson
Alfredo Germont  Ivan Magrì
Giorgio Germont  Thomas Hampson
Gaston  Francesco Petrozzi
Baron Douphol  Christian Rieger
Marquis d'Obigny  Tareq Nazmi
Doktor Grenvil  Christoph Stephinger
Giuseppe  Matthew Grills
Ein Diener Floras  Leonard Bernad
Ein Gärtner  Rafał Pawnuk

Parkett links 1 7-9