2013/06/18

Die Walküre/ワルキューレ(@Teatro alla Scala)

席から見たステージ
うぅむ、がっかりとは言わないまでも、感動できるパフォーマンスではなかった。
何かトラブルがあるのかもしれないと思わせるような出来である。これだったら明日のバスティーユのONP byジョルダンのヴァルキリーの方が多分レベルが高い(観られなくて本当に残念...!)。

初スカラ座だったので、初めてスカラ座オケの音をスカラ座で聴いた。
「こういう音なんだ!」というのが第一印象。音の印象は、クルミ、ノワゼット、アーモンド、干しアンズ、厚く落ち重なった秋の枯葉(よく乾いて陽が当たり、いい香りがする)。ロッシーニやヴェルディでもこういう音なのだろうか?
また席の位置のせいか、あるいは舞台装置のせいか、ソリストの声が立ち位置によって驚くほど違って聞こえる。アヴァンセーンに出てくると非常によく響き渡るが、中央付近に下がるとずいぶん遠く感じられるのだ。
いちばん気になったのが、オケに統一感がないこと。まるで指揮者が3人(弦、木管、金管)いて、なんとか合わせているように聞こえる。バイオリンとチェロまで合わない時がある。バレンボイムは音の強弱とテンポの緩急を一瞬に、かつ極端に変化させるが、それに全体がついていかない(いけない?)のに非常に驚いた。初めての指揮者でも初めてのレパートリーでもないのに!
いちばん酷かったのは第二ホルン(多分)が譜めくりの間違いをしたとしか思えないようなミスをし、しかも本人はそれに気づかず隣の奏者に腕を引っぱられて止めたという事。万一譜めくりを間違えても音楽を聴いていればこんなことが起こるわけがない。その後演奏が進む中、ホルンの奏者たちはしばらく何やら話し合っていた。
それでも第一幕は悲劇をベースにした不安定で儚い一瞬の幸せと歓びに至るシーンなのでその雰囲気に合っていたと言って言えないこともないが、それは意図して成功したときに言えるコトではないかとも思う(不幸中の幸いとも言えるか…)。でもそれはヴォータンの告別のシーンに合うものでは決してない。

ヴォータンと言えば、この日のパーペ…。高熱でもあったのではないかと疑いたくなるようなパフォーマンス。彼のパフォーマンスについてのみ言えば、落胆させられたとはっきり言える。声の質自体に問題があったようには聞こえなかったが、プロジェクションはOKギリギリのところ(いや逆にギリギリのところで落第か)、プレゼンスには疲労感が絶えずまとわりついている。神々の長としての威厳とオーラなど望むべくもない。

ジークムントのオニール、ジークリンデのマイヤー、歌唱と演技の若々しさに決定的に欠ける。予定調和の安定路線をいくようなパフォーマンスで不安なく聴けるが、目の前で繰り広げられるドラマ的なテンションが感じられない。オニールは動きにキレがないのだから、それをカヴァーする何かを工夫したほうがいいのではないかと改めて思う。

ブリュンヒルデのテオリン、最初の部分で声が硬く、高音をピシッと出すのに無理をしているようで「不調?!」と疑ったが、その後は復調して(でも絶好調ではなかったような…)ソリッドな歌唱を披露してくれた。元気が良くヴォータンお気に入りの跳ねっ返り娘をよく演じていた。
最初のヴォータンとの隙のないコンプリシテ、甘えるような可愛らしい娘の面を見せたかと思うと、今まで疑った事のなかった父親の指示を疑いを抱きはじめ、それに背くことを決意するまでの心の迷いなどが彼女の強いキャラクターに巧くのってとてもよく表されている(シュテンメも秀逸だが、彼女は盤石の強さはそれほど感じられず、割とフェミニンな印象)。役者的には今日の一番。

安心して聴いていられたのがフリッカのグヴァノワ。そんな彼女でもオーケストラと合わない箇所があったのだから、何か問題があるとしか思えないのだ。

そういうわけで全体的にソリスト達が歌いづらそうな印象で、舞台上とピット内の間に融和したハーモニーがあまり感じられないという不思議…。ここは天下のスカラ座だというのに、私の方が何か変調を来しているのではないかと疑いたくなる。
既にガラガラのピット!
カーテンコールでバレンボイムが現れる前にオーケストラのメンバーの約3分の1は既にピットを去っていたことにも驚かされた。同じ日のバスティーユではオーケストラが舞台上でジョルダンと共に拍手を受けていたというのに。師匠と弟子でこんなに差があったとは…!
半歩下がってそっぽ向いてるパーペ…

終演後、ギャラリー内のレストランで食事をしているとテラスの入口で十数人で食事をしていた人々が拍手をするのでそちらを見ると、バレンボイムがその他3人とやってきたのだった。
拍手にも小さく頷いただけでほとんど反応を示さず、サービスマンに何か話して席についた。その直後、ピンクとベージュのヨレヨレであまり趣味のよくないシャツを着た湯上がりみたいなオジサンが若い女性とくるなーと思ったらパーペ。彼らは6人一緒にテーブルについたが、他の4人が喋っているのに、バレンボイムとパーペは端に向かい合って座り、何やら硬い表情でそれほど話に花が咲いているようには見えず。今日の公演の様子をコンファームするように見えて仕方がなかった。
もうひとつ、第一幕が終わった後バレンボイムがコンサートマスターとかなり長い間話していた。あれは何だったんだろう。彼らの間ではよくある事なのかも知れないけれど。

公演の後にツイートしたように、ガッカリとは言わないまでも(コストパフォーマンスからしたらガッカリかもしれないが)、感動するものではなかった。ガッカリより何より、疑問が渦巻く公演だったと言える。レストランでの彼らの表情といい、ある意味忘れられない公演となったのは間違いない。

そういえば、リスネールが入口を入ったところで電話してた。ガルニエやバスティーユでジョエルを見かけることなんてないワー。でもガルニエやバスティーユは広くて目に入らないだけかも。

Direttore DANIEL BARENBOIM
Regia scene GUY CASSIERS
Scene e luci ENRICO BAGNOLI
Costumi TIM VAN STEENBERGEN
Video ARJEN KLERKX e KURT D'HAESELEER

Siegmund SIMON O'NEILL
Hunding MIKHAIL PETRENKO
Wotan RENÉ PAPE
Sieglinde WALTRAUD MEIER
Brünnhilde IRÈNE THEORIN
Fricka EKATERINA GUBANOVA