2013/10/10

AIDA / アイーダ ⑴ @Opéra Bastille -PREMIÈRE-

サングラスが必要なセノグラフィ!
この神殿が開いたり閉じたり回転したりする時に強力なライトが反射してすごく眩しい。
1968年にレオンティーン・プライスがタイトルロールを 歌って以来ONPでは上演のなかったアイーダ。今シーズン45年ぶりに復活ということでファンの期待も高かった公演の今日が初日。
第1幕はなんだか今ひとつキリッとせず、怠いパフォーマンス...。特にソリストの動きが練習途中のようだ。たいした演技がついているわけではないのに。
演出の設定は悪くないと思うのだけれど、カムフラージュのユニフォームを着てマシンガンを持ったフィギュランの使い方が消化不良かあるいは...いっその事ない方がよかった。
いやー、第1幕が終わったところで既に大ブーイングですよ!
セノグラフィだけ見たらとてもアイーダとは思えないけれど、国威発揚とナショナリズムをモチーフにしたのはここまでブーイングされるほど悪いアイディアではないと思う。それどころかアイーダとラダメスの悲恋物語の底辺にあるものはまさにそれだし、ジョエルのようにコロニー時代に設定する解釈もある。ピィはリヴレの歌詞をそのまま三次元にして舞台にのせたと言えるくらいだ。
ただあの死体置き場の累々たる死体、第3幕でアモナズロの「…母達や…を虐殺し」のところで上の通路から落とされてずっとぶら下がったままの死体、その真下にも転がる死体、安直なスローガンのプラカード、燃える十字架とKKKの白装束の人々、金色に輝く戦車、むやみに動き回る兵士、アムネリスが持つピストル、アマチュアみたいなダンサー等々…「うっわー、何なのコレ?」といわゆる目が点になるようなモノがいろいろと出てくるわけです。
エジプト→オーストリア、エチオピア→イタリアの完全読み替えで、ピィの意図するところが前述の多過ぎるいらないモノで邪魔されていたと思う。まぁ彼自身がまいた種ではあるが。でもこれから手直しをしていけばそれなりの作品になるんじゃないかと感じさせるプロダクションではないだろうか。
しかし!バレエの場面は全然ダメ!というかあれはバレエとかダンスとか呼べる代物ではなくお話しにならない。ピィにはバレエに重きを置くつもりがなかったのかもしれないが、あれだけの音楽があるのにただアマチュアかと疑いたくなるようなダンサーのPDDや、上半身裸でウロウロしたり悪ふざけのお仕置きにお尻を叩かれる兵士なんて全くつまらないし、手抜きとしか思えない。これなら何もない方がまだましじゃないかと思うレベル。ラ・ジョコンダを観てバレエが作品に与える影響力を学ぶべき!

タイトルロールのオクサナ・ディカはよく通る声でディクションもよいけれどピアニシモの繊細さとメゾピアノの柔らかさに欠けた一本調子になりがち。そのため全幕物のオペラではなくまるでリサイタルで歌っているような感じ。いや、リサイタルでもこればかり聴かされたら飽きるでしょう。
そして相手のソリストと反応しあって融合するどころか、意志の疎通さえもほとんど感じられないのが残念(これは演出のせいもある)。声にニュアンスをつけて苦悩や悲嘆の表現がもっとできるようにならないとアイーダは無理じゃないだろうか。まだキャリア的に時期尚早だったのかも。無理な話だが60年代のプライスの舞台を観てみたかった…!
その横でデュオの相手アルヴァレスの歌唱がよいので余計そう聞こえたのかもしれない。大音量の声ではないが、ニュアンスに富んだ声色と歌詞とシチュエーションに真実味を与える歌唱だ。ソロの部分は出だし慎重で、Celeste Aidaはそれほど心に迫るパフォーマンスではなかったが美しい仕上がり。その後時々居心地悪そうに歌うことがあって(レガートが切れる)、ドライブ感よく歌っていたラ・ジョコンダの時より緊張が高い印象を受けた。
アムネリスのディンティーノ、高音と低音の胸声であまりにも声が違いすぎて戸惑わされる。5速から急に3速にあるいはその逆にギアチェンジをする感じで、声のテクスチャーもサテンとビロードのようで差があり過ぎて…。でも彼女の王女としての存在感は流石。

今日のオーケストラ、ドンチャカガッシャーンのアイーダではなく、メロディアスでかなり交響曲的な響きのアイーダを聞かせてくれた。ピットにしまっておくのは惜しいミュージカリテ。金管はヴェルレク以降かなり良くなったように聞こえた。前奏曲、目を閉じると砂漠のオアシスの上に広がる満天の星の輝きが見えるような美しさ、一番最後のアムネリスの "Pace t'imploro, ... pace, pace... pace!" の部分はディンティーノの祈りのこもった深みのある声とともに静かに本を閉じるイメージ。


コーラス、ジョルダン&オケには賞賛の拍手。
(舞台右手には白い死体が2つ…これずーっとこのままで目障りで仕方なかった。)

ジェネラルがカオスだったと聞いていたし、案の定ものすごいブーイングだったのでピィは出て来ないんじゃないかと思ったら「いや〜やっぱりすごいブーイングだな〜」というような苦笑とともに小走りで出てきた。えらい(笑)!
個人的には不可解だったアルセストより意図するところの読み取れるアイーダの演出の方が好み。でも目障りな小道具類は見直してもらいたいですね!それからピィはどうもソリストへの演技のつけ方が上手くないんじゃないか。アルセストでも感じたが、今回もまた演技がついているのかいないのかよく解らない中途半端なソリストの動きが気になった。
10月10日はヴェルディの誕生日。バスティーユでは新プロダクションのアイーダ(ものすごいブーイング付き)の初日+ガルニエでは椿姫の最終日(アニエスのアデュー)だったので、記念になるなと思ってディストリビューションの入ったポスターを貰ってきた。


Philippe Jordan
Direction musicale
Olivier Py
Mise en scène
Pierre-André Weitz
Décors et costumes
Bertrand Killy
Lumières
Patrick Marie Aubert
Chef du Chœur
Carlo Cigni Il Re
Luciana D’intino  Amneris
Oksana Dyka  Aida
Marcelo Alvarez  Radamès
Roberto Scandiuzzi   Ramfis
Sergey Murzaev Amonasro
Elodie Hache Sacerdotessa
Oleksiy Palchykov Un Messaggero


Orchestre et Choeur de l’Opéra national de Paris