2013/08/06

神々の黄昏の演出 2/6(第1幕その1)

□第1幕□
この写真は2年前の舞台写真なのでグートルーネのヘアスタイルが少し違うし、
グンターも小綺麗な感じがしますナ(笑)。
今年はもっと長い乱れ髪を束ねたようなスタイルだった。

そうこうしている間にギービヒ家3兄弟妹が登場。序幕で少年と乳母が退場していったコースを逆に辿って3人一緒にやってくる。ハーゲンの座る車椅子をグートルーネが押し、グンターは片手に持った新聞でテープを避けて車椅子がスムーズに通れるようにと露払いのようなことをしながら出てくる。
このグンターのスーツ姿が酷い…。ニキーチンのお腹が出過ぎとかいうことはさておき(演技が進むにつれて裾がビロビロと出てくるし!)、深青緑色で70年代風なのだがはっきりそうとも言い切れない古びたスーツに似た色の少し幅広めのネクタイを妙に短く結んでいる。涙モノの小道具は薄い茶色の色付きメガネだ。斜陽(それもかなり日没寸前)のチンピラ風ですナ。髪もセットされてないようなスタイルでシャビー感に磨きをかけている…。
ハーゲンはグレーの三つ揃いで明るめのオレンジ色っぽいネクタイで彼がいちばん普通の格好をしている。策士は自らそれとは見せないのが常道ですね。
グートルーネは光の加減によって緑色に反射するようなベルベット風の深紅のスーツに胸元がVに開いた白いブラウス。髪はキッチリと夜会巻き、この衣裳に何故と問いたくなるディアデムをしている。妙にコワンセな感じのするスーツ姿で、婚期を逸した良家の娘と自覚しつつもその事実を受け入れたくない、という複雑な気持ちを視覚的によく表していると見ました。
このギービヒ家のシーンは退屈だ。ブラインドが下りてきて後ろのテーブルとベンチが並ぶ場所と区切られ、動ける場所が舞台の手前のみと制限されるため、3人が横に並んで時々行ったり来たりしながらああでもないこうでもないと歌い続ける。
車椅子に座ったハーゲンが下手にいてその後ろにベンチが2台、上手にはテーブルとベンチが置かれている。その手前のベンチの右端に黒服姿のハーゲンの乳母だったらしき人物が座っている(上の写真)。

第2場になってやっとジークフリートが登場し、まんまと計略にひっかかってグートルーネが持ってきた(巨大なアルザス風のグラスを”背後に隠すようにして”持ってくるのが謎)薬入りの飲み物を飲む。
ここはシナリオに大いに疑問がわくところですゾ!ラインの黄金からここまで延々何時間も観てきて、ストーリー大転換のきっかけになる浮気は単なる「忘却の秘薬」のせいですか?!
ちょっと安直すぎやしませんか?!(ではどうしろと?と問われても、ここでまた新たに面倒なモチーフが出てきて作品が長くなっても困るので何とも答えられないけれども。) 
それはさておき、ここで何が可笑しいって兄弟の杯を交わすシーン。
アルコールが入ったからか異様にハイなジークフリートは、やおらテーブルにあったナイフをとって自分の左袖をまくりあげて腕を切りつける。傍らで仰天しているグンターの頭を掴むと自分の腕に押し付け、傷から流れる血を口にさせるというおどろくべき荒技に出るのだ!それもこどもの遊びのような陽気さで!
そして呆然としているグンターの腕を切って自分自身も彼の血を口にし「血で結んだ兄弟の絆」が成立。
血を何滴かたらしたワインを飲むという”普通の”儀式とはかけ離れた演出でここは笑える。そしてこのハイな状態のまま、神経質にハンカチで傷口を拭ったり押さえたりしながらキョトキョトしているグンターを追い立てるようにしてブリュンヒルデを攫いに出発。
このようにグンターはギービヒ家の長としての意識がある時は胸を反らせて威を張るが、それ以外は本来の優柔不断で自らの意思で決定する事を知らない人物としてうまく演出されている。そのハーゲンの曖昧な人物像をニキーチンが非常に巧く表現していて見応えがあった。