舞台転換なしのセット、ほぼ全景。光の色と強さ、角度で様々に表情が変わる。このセット&セノグラフィが威力を発揮するのはパーテールの中央部。バルコンになるとその限りではないのが残念。
ソリストが歌う時にほとんど動きがないので退屈なシーンもあるが、回を重ねる毎に新しい発見があって、なんとこの悪評高き演出に愛着を感じるようになってきた!しかしすぐに再演されるかと言ったら微妙なところだろう...
この演出のカルメンは最初は威勢が良く口では「自由」と歌いつつも、話が進むにつれてドン・ジョゼに翻弄されてしまう弱い面に光を当てているのかもしれない。そういう意味でドン・ジョゼの性格描写の方が力強くされているように見える。や、とすると、この演出のタイトルはカルメンじゃなくて、ドン・ジョゼにした方がいいかも(笑)。しかしデエのカルメンに感情移入するのは至難の業だ。人の良さそうな笑顔と眉間にシワをよせた困った顔と間の抜けたような鳩に豆鉄砲顔でファムファタルとは困ったハナシだ。前述のようにカルメンが炎のような強気の女として描かれていないので、それも影響しているだろう。
好きなシーンは第2幕のシャンソン・ボエームの最後にみんなでトレーラーの上で70年代のディスコ風(!)のダンスをするところ。これがビゼーの音楽と驚くほどマッチするのが不思議で面白い。
それから第4幕の最初からドン・ジョゼが左上のテラスにいて一部始終を見届けているところ。こんな表情の人が横にいたらワタシはソッと逃げるな、みたいな顔でカルメンを見つめてて怖い。でも観客の何%が彼がここにいるに気づいているだろうか(ジャルダン側の席からは見づらいし、番号が上がっていくと見えなくなる位置。上の写真の位置が彼を見られるギリギリの場所)。いちばんの見どころはやっぱり最後のウェディングドレスを引っぱり出してくるところから。ドン・ジョゼのサイコパスぶりは何回観ても背筋がゾッとする…!
今日はあの最後のシーンで床が下がっていかなかった。あれは演出家の意図か、ただ単にモーターが故障しただけか?!ない方がセノグラフィが美しいし、不要な疑問もわかなくていい。
オーケストラの音が前回までに比べて熱っぽく(特に第四幕のオープニング)感じられたが、ソリスト達はなんとなくお疲れモードのような声に聞こえた。もしかしたら今日はお疲れモードじゃなくて、明後日&土曜日があるからセーブモードだったのかもしれない。しかし…第三幕のミカエラがアリアを歌い終わった途端に拍手がおこって、ビックリ顔のジョルダンが客席を振りむくという残念なエピソード付き。いつも思うんだけど、どうしてオーケストラの演奏が終わらないうちに拍手するんだろう?
隣の席には人が来なかった(牡蠣にでもあたったのだったら気の毒なことだ)のでコート置きにしてしまった。入り口で余ったチケットを買いたい人々もいたのに、まったく人生というのは不公平にできている。
PARTERRE 16 27-29