2012/12/22

Carmen ②(2012年12月22日 @Opéra Bastille)


今日のカルメン、よかった、ほんとうに!
第1幕を観終わった時に、前回のカルメンと比べてかなり演目としてしっかりしてきていると感じたが、最後まで観たら演目としてしっかりしてきたどころではなく、まるで別物のように感じた。

前回と違うのはまずタイトルロール。デエのカルメンはアントナッチと比べて格段にあばずれ女感に欠けるが、彼女の武器はホールを満たせる声だ。が、カルメンという役に合った声質ではないかも、と感じるところがある。それは初役のカルメンを自分の持っているものの中で模索している発展過程にあるからかもしれない。
そして前回はパズルの欠けたピースのようだったシューコフがしっかり復調してオペラの形を整ったものにしている。陰影をよく表す声で緩急のコントロールも良く、優柔不断なのに熱しやすいピリピリとしたドン・ジョゼに合っていると思う。特に第3幕、第4幕、前回おっかなびっくり歌っていた彼とは全くの別人、ドン・ジョゼに変身していた。また今日みたいなパフォーマンスを見せてくれるなら、もう一度観たい。彼はこういうécorché vifな役がピッタリ。この演出にカウフマンは合わないと思う(フランス語のディクション良くないし…)。

やっぱりテジエはエスカミリオのような威風堂々な一本気な役より、ニュアンスのある性格の役の方が個性に合っていると感じる。フィガロの結婚のアルマヴィーヴァ伯爵なんてピッタリだし。

ミカエラ役のキューマイヤーは声が美しいし音も外さないしとても上手だが、彼女の歌唱はなぜか心に迫ってこない。歌詞の意味を解って歌ってるのかしら?と疑問に感じるほど(初役ではないのでそんなことはないだろうが)。演技もいかにもという感じで上手いとは言えない(これは演出が半端なのかな、と思うところもあり)。

デエはもっとちゃんとダンスのレッスンしないと(笑)。あんな変なダンスじゃ(っていうかあれじゃダンスって言えないから)誘惑されるどころか100年の恋も冷める…。そういえば少し演出の手直しがあって、前回のカルメンはテラスを支える鉄柱に片手を手錠でつながれていたが、今日のカルメンは両手を手錠でつながれていただけだった。できればアントナッチのカルメンを今日の位置で観たかったな。

最後にあの舞台の中央が四角く切れて下に降りて行く部分、あれかなり深く下がって行くんだけど、パーテールの前の方じゃたいしてよく見えない。何か出てくるんじゃないかと首をのばしてる人が大勢いたが、当然だろう。あれはやっぱり”奈落の底説”でいいんだろうか…?
このプロダクションのために用意された衣裳の数は500。そのうちアトリエで新しく製作されたものが80。この時代(70年代)の素材が既に入手できないので、集めた古着が420。靴の数は約300足。役によって1人当たり2〜3足。ちょっと信じ難いことだが、衣裳担当はあのH&Aと同じ人だ。両極端なこの2つの演出にしっかりと信頼性を与える彼の才能のパレットの広さには驚くしかない。
前回プルミエバルコンからは見えなかった舞台右側の白いシートからの明るさがセノグラフィを前回とずいぶん違ったクリアな印象にしている。上から見ると雑多な色が混在して美しさに欠けた舞台だったが、今日の場所からだとその雑多な色が重なってシーンに厚みを与えていることに気がついた。しかしオーケストラとコーラスの音はバルコンで聴いた時の方が良かった…視覚的にはパーテール、音楽的にはバルコン、難しいチョイスに迫られる。
言うまでもなくジョルダンの指揮、コーラスの一体感、ほんとうにいい舞台を見せてもらった。あまりにも気分がよかったので、メトロを降りてからタンタカタカタカ、タンタカタカタカ、タンタカタカタカターン!って歌いながら帰ってきた。気分よかったー!


PARTERRE 10 5-7