2012/10/15

La Fille du Régiment / 連隊の娘 ①(2012年10月15日@Opéra Bastille)



前につんのめったような状態で飛びついてしまったのでこんなに高い席なことが残念ではあるが…
(2ème balconの1列目、いちばん端の席だった)

待ちに待ったLa Filleの初日!
観賞後のひとことは、「あぁ神様!」。5月のTCEでのリサイタルでもフロレスの声のインパクトにノックアウトされたが、それとはあらゆる面で比べものにならない(比べようもないが)。
何と言っても歌よ、歌!オペラなのにこう言いきってしまっては身も蓋もないが、演出でもセノグラフィでも衣裳でもなくて、何よりもフロレスの歌唱に衝撃をうけた。もちろん演出もセノグラフィもよかったけれど。(マリーの衣裳はちょっと好みから外れている。)
"Ah mes amis!"に向かって観客の期待がふつふつと高まっていくのが感じられ、アリアの最中のホールは完全にフロレスのパーフェクトなラインの歌唱とオーラに満たされつくしている。パリでフロレスの"Ah mes amis!"を初めて聴いているのだ(リサイタルではなく)!歌い終わった時にはまるでバスティーユのホールが崩れ落ちるのではないかとおもわれるほどの拍手と歓声。それまで最高潮に達していた圧力がどっと解放されたかのよう。パリの観客はいつもクールでスタンディングオヴェーションもめったにないが、こんな大音響での熱狂の渦のなかに身をおいたのはは初めてだ。
有名なこの"Ah mes amis!"がハイライトのような気がするが、私は第2幕のロマンス"Pour me rapprocher de Marie"が歌詞もメロディーもより心をうつものと思っている。ここをフロレスはひとつの音もおろそかにすることなく、まるで手中に儚い宝物を持っているかのように美しいレガートで大事に大事に歌い上げる。もうね、感涙ものなワケです。これを聴いて心を動かされないようなヒトは人間じゃあありません。
そしてフロレスって歌唱はもちろん、演技にも雑なところが全くなくて、それがまた感動を倍増させるのね。



フロレスはロイヤルオペラハウスのDVDに比べて格段にフランス語が上手になっていて、それもまたこの作品に完全にのめり込める大きな要因のひとつになっていたと思う。イタリア語やドイツ語ならそこまで解らないのでそれほど気にならないが、あまりにフランス語のディクションが悪いと興醒めなのだ。その点ドゥセはフランス人だし、コルベッリも英語よりフランス語に堪能なくらいだし、願ってもない好トリオ。これまで何度もこの演目で共演しているこの3人のコンプリシテ感が観ていてとても楽しい。

またドゥセのピアニシモをホールの隅々までしっかりと届ける歌唱をあらためてすごいなぁと思った。今日は少しパワー不足なのをメリハリを上手くつけてコントロールしているかなという感じ。高音はやっぱりちょっと厳しいかなと思わされるけれど、中高音の滑らかさと美しさが加わった感じがした。あと言うまでもなく彼女は役者。よくもまぁあれだけ動いて演じてしっかりはずさずに歌いきれるなぁと感心。細身ながら筋肉質。


先シーズンのセビリアの理髪師でもとてもよかったマルコのイタリアオペラの指揮はとても気に入っている。今日も期待を裏切らない爽やかで軽やかな(浅薄ではない!)メロディーのドニゼッティを聴かせてくれた。

いやフロレスは本当にペルーのポップス歌手になってなくてよかった…。フィラデルフィアのカーティスに留学する時、航空券を買うためにルノーを売ってくれたお母さん、本当にありがとう。もし航空券が買えないからって留学話がおじゃんになってたら、フロレスのいない今のオペラ界はどんな風だっただろうとしみじみ思う。
リシュリュー・ドゥルオで降りてから、フロレスのアリアを思い出してはポロポロ泣きながら歩いて帰ってきたのであった…


Marco Armiliato Direction musicale 
Laurent Pelly Mise en scène et costumes 

Natalie Dessay : Marie 
Doris Lamprecht : La Marquise de Berkenfield 
Dame Felicity Lott : La Duchesse de Crakentorp 
Juan Diego Florez : Tonio 
Alessandro Corbelli : Sulpice 
Francis Dudziak : Hortensius 
Robert Catania : Un Paysan 
Daejin Bang : Le Caporal


オマケ:クラケントープ公爵夫人はフェリシティー・ロット。アコーデオンに合わせてモンセラート・カバレも歌ったらしい"G' Schätzli"を歌ってくれる。