2014/02/22

La Fanciulla del West / 西部の娘 ⑵ @Opéra Bastille

ピストルを撃ってミニー登場 ©Charles Duprat/ONP

これは「アメリカの西部の娘」ではなくて「ヨーロッパから見て西の方にある国の娘」。この演出、荒唐無稽で面白過ぎる!第1幕はNYの摩天楼が見える(それも打ち破られたような壁の大穴から!)バーが舞台。ピカピカ光るスロットマシンや安っぽい不揃いの椅子などが雰囲気をはっきりと出している。そこに集まる男達は黒革のコートやブルゾンに黒革のパンツ、黒革のブーツ、黒いテンガロンハット。この人たちが大勢なので、彼らが移動する時に足音がとてもうるさい。ラ・ジョコンダの時もそうだったけれど、演出家や指揮者はこういう騒音が気にならないのかしら?ジェイク・ウォレスは白装束で、袖にのれんのようなピラピラのついたカントリーシンガースタイル。彼が歌う時は摩天楼の映像が緑の牧草地の映像に変わる。ミニーは赤革のロングコートに黒のテンガロンハットで文字通り紅一点。ピストルの轟音とともに登場。


©Victor Tonelli

第2幕の舞台は一転して雪化粧の山の中。周りを針葉樹に囲まれた舞台中央にドカーンと置かれた銀色のキャラバン(キャンピングトレーラー)。その両側には巨大なバンビが狛犬のように踞って客席を見ている(目が光ったりするのよ!)。すぐ横のポールには国旗が。キャラバン内部は壁からベッドにいたるまで濃いピンク色のレザー張りで金色ボタンでキャピトン加工されていて、まるでバービーハウスのよう(幕が上がると客席から笑いが)。ベッドの上にはぬいぐるみが置かれていてミニーのナイーブな少女趣味を強調。内外の雰囲気の両極端さが面白い。


両脇の車の山が見えづらくて残念! ©Charles Dupurat/ONP

第3幕の幕が上がるとそこには廃車になったポンコツ車が山のように積み上げられている(あれを積み上げて固定するの大変だろうなーと思った)。それを目にした観客からONPのオペラの舞台では稀な事に拍手が。もちろんあちこちから「シーーーーッッッ!!!」という声が上がって拍手はすぐに止んだ(笑)。そしてそのポンコツ車の山が左右にガーッと開くとライト輝くレビューの白階段があり、ミニーはその上から真っ赤なスパンコールキラキラのドレス姿で現れる(こういう格好の古いアニメのキャラクターがいたと思うんだけど思い出せない)。同時にバックスクリーンにはMGMのライオンのロゴにそっくりな映像が映し出される。そして首吊りを免れたジョンソンの姿が見えなくなったと思うと、彼は階段の上から白いタキシード姿で登場(笑)。映像でドル札がバラバラと降ってくる(爆)。最後、幕がおりる直前に手前のスクリーンに大写しになるのが20ドル札なんだけど「何だかんだ言っても、ま、20ドル程度のモノよ」ってことかしら(笑)。
まぁちょっと歌詞と合わないようなところもそこここにあるのでピュリストの方々はご立腹でしょうが、私は気にせず大いに楽しんだので、このレーンホフの西部の娘のようなプロダクションをもっと増やせばいいのにな、と思う。

先に始まった西部の娘と一部重なるように蝶々夫人がプログラムされているが、同じプッチーニでも全く違った世界が観られて本当に面白い。音楽的には西部の娘の方が一貫性があるが驚きがない感じ。蝶々夫人の方は「あれ?これ火の鳥?」と思うような部分があったりして複雑なモザイク感がある。
それにしても年明けからウェルテル、西部の娘、オネーギンってONPでは銃声が響き渡ってますね(それが狙い?)。

今日はベルティが思いのほか好演。ちょっと痩せて(それでもお腹が丸いけど)何より始終大声でがなりたてないところがいい。そして演技巧いなぁ…とは言い難いが、トスカの時に辟易させられた「大根役者の熱演」ではなくなっている。でも彼が演じるとどんなキャラクターも芝居としてあまり深みのないサラーッとした人物になりがちなのは残念なところ。(「好演」と始めながら、結局「残念」になってしまったではないか!)


CARLO RIZZI  Direction musicale
NIKOLAUS LEHNHOFF  Mise en scène
RAIMUND BAUER  Décors
ANDREA SCHMIDT-FUTTERER  Costumes
DUANE SCHULER  Lumières
DENNI SAYERS  Mouvements chorégraphiques
JONAS GERBERDING  Vidéo

NINA STEMME  Minnie
CLAUDIO SGURA  Jack Rance
MARCO BERTI  Dick Johnson
ROMAN SADNIK  Nick
ANDREA MASTRONI Ashby
ANDRÉ HEYBOER  Sonora



PARTERRE 7 27-29 



2014/02/17

Madama Butterfly / 蝶々夫人 @Opéra Bastille

派手さはないけれど、なんという優しさに満ちたマダムバタフライの音楽!!!オーケストラbyカッレガーリの音楽だけでも陶酔できる。
この夜の公演の何が良かったかと言えば、ソリストのひとりひとりのパフォーマンスがよく、また彼らのバランスが絶妙だったこと、それらすべてを時に熱くまた優しく、あるいは微風のように心情的に腕に抱くようなオケとの融合感。パズルのピースがそれぞれピタリとはまった時のような完成度があった。
これで演出とセノグラフィがコテコテだと頭が爆発したり消化不良になったりするところだが、ウィルソンの様式化された演出がスッキリと見せてくれるので、音楽、歌唱、セノグラフィそれぞれの印象が長く心に残る。

蝶々さん役のヴァシレワ、あの小柄細めの身体のどこからあのパワフルな歌唱が…と驚嘆。第1幕では表情も歌い方も本当に15歳くらいの少女に見えるが、2幕3幕になると顔つきも声の迫力も変わって行く。声そのものに感情のニュアンスが合って歌詞を知らない観客も泣かせられるソリストだと思う。

ONPに初登場のILINCAI(イリンカイと読むのかしら)、もう彼はピンカートンにピッタリでw。明るくて思慮浅く自己中心的なキャラクターそのものの声(とルックス)。それほど密度はないけれどクリアな声、パーンとしたプロジェクションと響きのよさ、他の役でも聴いてみたい。

シャープレスのヴィヴィアーニ、ピンカートンとの対比がピッタリ。思慮深く、周囲に気を配る思いやりもある。そのキャラクターにあった信頼感のある声もとても心地よい。少し気弱な印象を受けるのは演出のせいか、それとも控えめな声のプロジェクションのせいか…?

スズキ役の演出が非常に良いと思う。出しゃばらず心配性で蝶々さんへの愛情がこもっている。それをOncioiuがそれはもう巧みに演じている。歌唱も役柄に合った声色なので彼女の思いがすんなりと理解できる。彼女は舞台の中央辺りにいることが多いが、上のバルコンではどう聞こえただろう?

やっぱりウィルソンの演出。また20年後に観ても全く古さを感じさせないだろう。セノグラフィはシンプルの極地、コレグラフィはウィルソンと度々コラボしている花柳寿々紫で、登場人物の動きは様式化されている。ソリストはかなりの稽古が必要だったのでは。袖をたたむ仕草などとても美しい。極度に簡素化され光によってガラリと印象を変えるセノグラフィ、様式化された立ち居振る舞い、ウィルソンが表そうとした蝶々さんの生きていた日本のイメージがここにあるのかなと思う。

この演出が他と違うのが第2幕の終わりから第3幕の初めにかけて。普通スズキと息子は眠ってしまうが、この演出では息子は眠らず(何か紙の人形のようなものを置くので夢の中を表しているのかも…)舞台を回りながら時々何かをつまんで口に入れる仕草。母の元に戻り、それを1つ1つ口から出しつつ母の手のひらに置く。これが何を意味するのかは謎。普段はこういう意味が解明できない演出は好まないが、この場合最初から最後までスタイル化されているので幸いな事に気にならなかった。


この部分の音楽が素晴らしくて幻想的なシーンと相まって文字通りtransportéeな心持ちになる。が、今正気に戻って振り返ってみるに、カッレガーリも自らメロディーを歌いつつかなり陶酔してたのでオケはついていくのが大変だったのでは…。


DANIELE CALLEGARI  Direction musicale
ROBERT WILSON  Mise en scène et lumières
GIUSEPPE FRIGENI  Co-metteur en scène
MARINA FRIGENI  Collaboration à la mise en scène
FRIDA PARMEGGIANI  Costumes
HENRICH BRUNKE & ROBERT WILSON  Lumières
SUZUSHI HANAYAGI  Chorégraphie
HOLM KELLER  Dramaturgie

SVETRA VASSILEVA  Cio-Cio San
CORNELIA ONCIOIU  Suzuki
TEODOR ILINCAI  F.B. Pinkerton
GABRIELE VIVIANI  Sharpless
CARLO BOSI  Goro
FLORIAN SEMPEY  Principe Yamadori


PARTERRE 3-13
お隣の席には「世界中を遊びあるってるのよ」とおっしゃる83歳の元気なおじいさま。「これね、昔からいくつも観てるけどね、いいねぇ、この演出。動きが能の動きだねぇ。本当にいいねぇ。年末にドレスデンで観たのよりずっといいよ!」とおっしゃっていました。

2014/02/07

La Fanciulla del West / 西部の娘 ⑴ @Opéra Bastille

今夜の西部の娘、ベルティがキャンセルなのでR.Rojasというヒトがアヴァンセーンで歌ってD.Doonerっていう演出家のアシスタントが演技をするんですってー!話に聞いたことはあっても実際こういう場面に遭遇するとは思っても見なかった、何とまあ不可思議な公演を観に行くことか。(オプティマ席じゃなくてよかったと安堵。)
ベルティ、好みのテノールではないけれど今回はそこそこ評判がいいようなので密かに楽しみにしていたので残念だが、再来週に持ち越し。しかし誰なのこのテノール?まさかアトリエ・リリックから引っぱってきたんじゃないでしょうねー?!

演出もセノグラフィも面白いのに、やっぱりアヴァンセーンで歌われると大変に興を削がれる。助手の芝居が巧いので余計に変な感じ。ジョンソンは舞台の右端にあるカウンターにいるのに声は左端から聞こえるのは感覚的に戸惑うし(いや本当に舞台直近じゃなくてよかった)だいたい歌ってるときウィスキーは飲めないはずだ(笑)。

シュテンメのみずみずしい声(第1幕はそれほど本調子とは思えず、また最高音は出しづらかったのか「準備して」かつ硬い声だったけれど)とプレゼンスが際立ってしまったのはジョンソン役がそういうコトだったので仕方がないが、彼女も演じにくかっただろうなぁ。でも代役氏の方がルックスは数段上だったと思う(笑)。

そしてランスのスグラはこの役にピッタリの容貌で、このキャスティングの中でいちばんはまり役のように見える。ラ・ジョコンダのバルナバよりもこちらの方が似合っているし、役としても面白みがあるだろう。


主役ペアが整わないし、なんだか音楽的にもあまり盛り上がらないし(オケはあんなに大編成だがinspiré感に欠ける)、口元に戻ってくるようなピカリとしたメロディーもない。このくらい面白い演出がついていないと、同じプッチーニ作でもトスカなんかに比べて上演されないのは仕方ないわーと感じた。でもあれだけの大編成のオケをしっかり鳴らしながらもソリストの声がはっきり聞こえるというのはリッツィの腕前が冴えているからでしょうね。演出については次回。


PREMIER BALCON 8-21


2014/02/02

Werther / ウェルテル ⑵ @Opéra Bastille



今日はソリストとオケのズレがちょっと気になった。感情の進むままに突き進むところは突き進んで歌いたい側とメロディーにゆったりと歌わせたい側との溝とも言うべきか。
5列目中央で聴いていたが、アラーニャの声はインパクトがなくて驚いた。普通十数列目まではソリストが正面でこちらを向いて歌うとかなりのインパクトを感じるものだが、彼の声ではそれを感じないのだ。上のバルコンまでしっかり届くプロジェクション良好な声なのに、バーンとぶつかって圧倒される感覚がないのが不思議。あの声はどういう仕組みになっているのだろう?

やっぱり芝居としてはパーテールの中央部で観るのがよい。そういえば、バルコンではうるさいくらいだった水の音がここでは全く気にならない。セヴィリアの理髪師の時、パティオの噴水の音が気になるという人々がいたが私にはほとんど聞こえず不思議だったのだが、こういうわけだったのねと理解。

プラソンさんは80歳なのかー。滋味があって、枯山水的なところはなく、あくまでもみずみずしい音楽を聴かせてくれる。