2013/05/20

La Gioconda/ラ・ジョコンダ① @Opéra Bastille



La Gioconda素晴らしかった。全く知らないオペラだったけれど(時の踊りがこのオペラからの抜粋だったとは予習中に知った)、これほど心動かされるものだったとは…!
開演前に舞台監督(多分)がカーテン前に出てきて「ウルマナとアナスタソフは体調がよくありませんが、今夜の出演を了解してくれました。」とアナウンス。客席はドヨドヨ…私は昨年末のカルメンでのシューコフ(ドン・ジョゼ)に同じアナウンスがあって実際ヨロヨロのパフォーマンスだったことが頭をよぎった。
結果的にはウルマナはやはり最高音の方で「ヒャー!」とこちらが首をすくめたくなるような声になってしまったけれども、彼女本来の音域は不調を感じさせる歌唱にはならなかったので安心した。でもウルマナはもともとそれほど高音が美しくない、というか音が上がるにしたがって声のボリュームが先細りになり、最後には彼女の身体からは想像もできないような薄っぺらい声になってしまうきらいがあるので、それに体調不良が加わったのではこのようなパフォーマンスになるのは仕方のないことだろう。一方アナスタソフは終わりが近づくにしたがって疲れが増してかなりクタクタだったようだ。最初からきちんと歌うことにまず意識を集中していた様子で、演技に心を配るまでには至れなかったと思われる。
美しいメロディーに満ちたこのオペラが今までONPのレペルトワールに入っていなかったというのが不思議でならないが、ジョコンダ役が超難関で歌おうとするソプラノがいなかったのかもしれない。高音だけでなくメッツォもめったに出さないような低音で歌う部分もあって、音域の広さと声の強靭さが要求される難役だろう。
メッツォと言ったらもう、ジョコンダの母親チエカ役のモンティエルの素晴らしいこと。透明感と質感を兼ねそなえた美しい声はもちろん、命を救われてローラに感謝する "Voce di donna o d'angelo" のあの歌唱…。泣けて仕方がなかったが、クリネックスもハンカチも足元に置いたバッグの奥底。手のひらで押さえたりしたのでひどい顔になっていたな、きっと。
このアリアに限らず、腕や背中がゾクゾクッとするような、本当に素晴らしいメロディーが目白押しで並んでいる。オーケストラも初めての作品で大変だったに違いないが、オレンの指揮によくついていっていた。(カーテンコールでオレンにブーイングする人がいたが、これだけの仕上がりに何を文句を言うことがあるだろうか!)
アルヴァレスは快調なようで、実際そうかどうかは別としてすべてのアリアを楽々と歌っているようだった(いつもの通り、眉間にシワをよせたちょっと困ったような表情で)。いいテノールだと思うけれど、いまひとつ役にのめり込めない人?という印象を受ける。これとアンドレア・シェニエしか観たことないので何とも言えないけれど。悪人役はどうだろう。マントヴァ公とか。
ストーリーとしてはジョコンダとエンゾのカップルとジョコンダに横恋慕する極悪非情のバルナバ、エンゾの元GFローラ(アルヴィーゼの妻)の四角関係に途中からアルヴィーゼも加わったドロドロの愛憎劇。これが夢のように美しいメロディーにのって繰り広げられる不思議。
放火もあり!
ロミジュリのような服毒芝居あり、自殺あり、他殺あり、もうほとんど救いのない(エンゾとローラは逃げ果せるが)ストーリーなのに観ていてまったく陰鬱な心持ちにならないのは、音楽が地を這うようなおどろおどろしいものではないから。完全に悲劇的な歌詞を、いたって明るい軽妙なメロディーにのせて歌うのも難しいことじゃないだろうか。これも練習するうちに慣れるのかしら…?

そして時の踊りのバレエ!これはちょっとお口直しにバレエをどうぞ、みたいなオマケとはちょっとワケが違う。アルヴィーゼ主催のパーティーの余興として披露されるものだけれど、片手間にくっつけたとは思えないしっかりとしたバレエだった。特にコレグラフィが抜群に素晴らしかったということではないけれど、Angel Corellaというダンサーのプレゼンスがすごい。あのパも簡単ではないし、ピルエットのスピードと正確さには驚くばかり。バレエの最後の拍手がものすごかった。
それまで(いい意味で)ジョコンダの醸し出す世界にユラユラと酔っていたのが、舞台の色合いもあってサッと目覚めるとともに、舞台進行がギューッと引き締められて再終幕まで飽きさせずに見せる、という感じ。ポダリデス演出のブルジョワ・ジョンティオムを観た時にも思ったが、バレエがオペラや劇に与える効果は(もちろんそのバレエの質によるが)計り知れないものがあると改めて感じた。
ぜひもう1度観たいので、さっそく最終日の席を手配しなければと急いだが、ラ・ジョコンダの最終日はONPのサイト上では今のところコンプレである。1週間前になったら戻りチケットがあるかもしれない。今週の木曜日と日曜日の公演もあるけれど、ガルニエのジュリオ・チェーザレの公演と重なっているので行けない。最終日のラ・ジョコンダ、とれるかどうかいちおうお願いを出しておくことにする。


DANIEL OREN  Direction musical
PIER LUIGI PIZZI  Mise en scène, décors et costumes
SERGIO ROSSI  Lumières
GHEORGHE IANCU  Chorégraphie

VIOLETA URMANA  La Gioconda
ELENA BOCHAROVA  Laura Adorno
ORLIN ANASTASSOV  Alvise Badoero
MARIA JOSÉ MONTIEL  La Cieca
MARCELO ALVAREZ  Enzo Grimaldo
CLAUDIO SGURA  Barnaba

LETIZIA GIULIANI, ANGEL CORELLA  Solistes de la Danse des heures


1ER BALCON 3 36-38

(5月24日:アルヴァレス調子悪いのかしらん。月曜日はあんなに好調だったのに、木曜日は体調のせいか途中から急遽代役が立ったらしい。残りの日程キャンセルなどということにならなければいいけれど、心配だわ。)