意外な事にONPでの公演は1987年以来2回目という清教徒を、ペリーのチームがどのような作品に作り上げたか楽しみな新プロダクションの初日。
金属の棒だけで作られた、まるでサインペンと定規で三次元に描かれた分割可能な城と室内の壁がシーンによって使い分けられる。それ以外の舞台セットは何一つない極シンプルなセノグラフィだが、城自体が回転することと(ピィのトロヴァトーレは「回り過ぎ!」に見えたが、この城は線だけなのでその印象はほとんどない)、ライティングとホリゾントに映る映像で印象を変える美しいオブジェである。
またエルヴィーラを閉じ込める籠に見えるように意図されているのだろう。そのちょっと古くさく見えるようなところまでも含めあらゆる面で成功していた連隊の娘よりも、個人的にはシンプルで洗練されている今回のセノグラフィの方が好みである。
その(敢えて言えば)空っぽな舞台を埋めるのがソリストのプレゼンスとコーラスの人々である。宮廷の人々や兵士たちにはまるで機械仕掛けの人形のような動きがつけられていて、特に円錐状のスカートをはいた女性達はまるで舞台上を滑るように動くのが不思議で、全体的にコミックな雰囲気を漂わせていて面白かった。
コーラスの歌唱は…可もなく不可もなくというか、つかみどころのないもので印象が薄い。アイーダであれだけドラマチックだったのに、これは準備不足かそれともレペルトワールとして苦手ということだろうか?もう少し回が進んで改善されるといいのだけれど。
さてソリスト陣、楽しみにしていたエルヴィーラ役のアグレスタ嬢は意外にもそれほど良さを感じなかった。ディクションは明瞭、声の色合いも幅も豊かでプロジェクションもそこそこ良いのに、昨夜は最高音が狙ったところをほぼ全て外れていたし、コロラチューラも硬くて滑り気味になり、それをコントロールしようとして自然さに欠けていた。
発狂する前にそれが顕著で、その後は高音のボリュームを絞って歌いやすいように調整していたようだが、不自然な感じは拭いきれない。高音は彼女の得意ではないのだろうか。中音域の上半分ではつややかな歌声を聴かせてくれるのに…(ウルマナと似ているわね、ここら辺)。
最後のカヴァレッタがなくて「あれ?これでお終い?」という感じになってしまうのが少し残念だった。
エルヴィーラのフィアンセ、アルチューロ役はコルチャク。
最初のアリアは緊張からか声は大きいもののレガートはブツ切り!ベルカントの美しさからは程遠い歌唱で、この先どんなコトになるのかと心配したけれど、以降は調子を戻してきて一安心。先日ガルニエでコジのフェランドを歌った時には鼓膜が破れるかと辟易させられたが、やはり彼の声はバスティーユサイズだ。去年TCEで聴いた時に比べると、場面に応じて少々ニュアンスがついているかなー…という印象を受けたが、やはりパワーに任せた一本調子で朗々と歌いすぎる。正義感あふれる直情型のアルチューロにピッタリはまって効果的なこともあるが、そのうち飽きてくるのだ、こういう歌唱は(全長3分のナポリ歌謡ならいいと思うけど…w)。
そしてデュエットの相性は声の印象だけで言うならTCEでのペレチャツコとのデュエットの方が私は好みだ。あるいはヨンチェヴァ。
エルヴィーラのアグレスタより期待していたのはリッカルドのクヴィエチェン。「うん、君の心情は本当に手に取るようによく解るよ」と話しかけたくなるパフォーマンス。巧いなー…。ディクション良く、滑らかなレガート、役にピッタリの深みのある声とそのニュアンス、ルックスに似合わず繊細で役に酔わずきっちりと歌い上げるところなど、充分に楽しませてもらった。
しかしながら…真面目な一刻もののリッカルド一辺倒なので、アルチューロとエンリケッタを逃がす際「此奴が王女を連れて逃げて消えればエルヴィーラはオレのものさ、フフフ」などと考えているようには見えず、役者としてはいまひとつだったな、という感があり、次回はどうなってくるかまた楽しみ。
そして昨夜のベストパフォーマンスはジョルジオ役のペルトゥージ!
まず歌唱的にほぼ非の打ち所がなく(ほぼ、というのはもしかしたら上のバルコンでは聞きづらかったかもしれないというプロジェクションの問題)、その歌唱でノーブルかつ姪を思いやる心を存分に表現している。そのたたずまいや動きもまた良く、歌唱に説得力が加わる。
このリッカルドとジョルジオのデュエットがいちばん素晴らしく、聞き応え抜群。バランスはジョルジオの方に傾いていたような気がするが、リッカルドもよく頑張っていた。ヴェルディがカルロとロドリーゴに歌わせる前に、ベッリーニがこの2人に “Bello è affrontar la morte Gridando: libertà!” と歌わせていたとは、昨夜の新発見(笑)。
MICHELE MARIOTTI Direction Musicale
LAURENT PELLY Mise en scène et costumes
CHANTAL THOMAS Décors
JEAN-JACQUES DELMOTTE Collaboration aux costumes
JOËL ADAM Lumières
MARIA AGRESTA Elvira
DMITRI KORCHAK Lord Arturo Talbot
MARIUSZ KWIECIEN Sir Riccardo Forth
MICHELE PERTUSI Sir Giorgio
LUCA LOMBARDO Sir Bruno Roberton
ANDREEA SOARE Enrichetta di Francia
WOJTEK SMILEK Lord Gualtiero Valton