しかし一方ビブラートが強く聞こえたので少し懸念していたけれど、実際に聴くとあのシラー劇場のまったく響かない音響のためかほとんど気にならない。ただロールデビューで力が入っているのかいつもこのように歌うのか判らないが、ブツブツ切るように歌うことがある。伸びのあるよい質感の声なのだからもったいない。グルネマンツのパーペと比べてここが大きく異なる点。
しかし最後までまったくパワーが落ちず、テンションも切れないのがすごい!
パルジファルが登場すると舞台の空気が変わる。音楽がパルジファルのテーマで雰囲気をガラリと変えるが、彼が舞台に出てきて”Gewiß! Im Fluge treff’ ich, was fliegt.”と歌った途端に空気の密度が増して硬質になり舞台上のテンションが高まる。
(悪趣味な)Tシャツにショートパンツ、フード付きパーカーを腰に巻いてバックパックを背負った姿でも「彼だ!」と瞬時に納得できる声があるのだ。
ここで彼は観客の心をしっかりと捉えて最後まで離さない。これはチェルニアコフがパルジファルに与えているキャラクターとシャガーの声質と役作りが合致しているから。
第二幕のクンドリの昔語りを聞いての混乱、そして知の覚醒と苦悩(物語のターニングポイントになるこの部分はこういう風にきっちりと見せて欲しい!)、第三幕での演出による微妙な立ち位置をすべて的確に表現していて、芝居好きには嬉しかった。
第三幕だってクンドリとはわけが違うのに大丈夫?と不安だったが(スカラのワルキューレでヴォータンを歌った時のことが頭をよぎった…)聴かせるべきところはビシッと聴かせ演じるべきところはしっかり演じ(洗礼シーンの感動は演技とは思えないくらい真に迫っていた)、不調でこれだけ聴かせてくれたらもう御の字です、言われなかったらそういう演技だと思ってました、という感じ。でもシャーガーやカンペに比べると精彩を欠いていたかな、やっぱり。
バレンボイムはピットの客席側に覆いをとりつけ、ホールのライトが消えると暗がりの中で前奏曲が始まる。プルミエールの時と同じくとてもスローテンポだったが、その場で聴いていると作品が徐々に目覚めていく過程のように感じられる。ストーリーが始まると無理なくギアアップして軌道にのっていく。
音楽の流れを大事にしつつ、テンポをキュッと上げて緊張感をつけたりゆっくりな部分では上昇感のある音作りにしたりとテンションが下手に緩まない。また休符のいれ方などはジョルダンは彼の弟子だったなと思わせるところが。パーテールの3列目だったせいかソリストの声はかなりよく聞こえていたがそれでも時々オケの音が壁になることがあった(ここら辺もあてはまるジョルダン)。
終演後その紙を渡してくれながら彼女は「入口のところでサインを貰えますよ」と言う。誰のサインかと聞いたら主役の人、という。私は出待ちにもサイン会にも興味のない方だが日付入りのキャスト表にロールデビューのパルジファルのサインがあったらいいじゃない、と思って入口の方に向かうと、確かにテーブルがあって人が十数人並んでいる。私たちの後ろには5人もいなかったから総勢たったの20名くらい(まったく宣伝してなかった様子がありありと!)。
あっという間に元気にやってきたシャガー(まったく疲れの色が見えない不思議)、キャスト表にサインしながら「どちらからいらっしゃいました?」と聞くので「パリからです。パリにはいらっしゃらないんですか?」と尋ね返した。すると笑顔で「パリ、行きますよ!」「え、いつ?!」「18年にパルジファルで」とのこと。リスネーチーム、先見の明あっていいパルジファルを見つけましたね。彼の良さを最大限に引き出せる演出をお願いします。
Musikalische Leitung Daniel Barenboim
Inszenierung Dmitri Tcherniakov
Bühnenbild Dmitri Tcherniakov
Kostüme Elena Zaytseva
Licht Gleb Filshtinsky
Chöre Martin Wright
Dramaturgie Jens Schroth
Amfortas Wolfgang Koch
Gurnemanz René Pape
Parsifal Andreas Schager
Klingsor Thomas Tomasson
Kundry Anja Kampe
Parkett links 3 11-12