第1幕のセノグラフィは...うーむ...好みがキッパリ分かれるところだろう。私は階下の鍛治場とヴォータンとミーメが問答をするシーン(黒い板で舞台が手前から数メートルに限られる)は気に入ったが、階上のカナビス栽培とか安っぽい家具やゼラニウムのジャルディニエール、ナンドジャルダンには「?!?!?!」。しかしここでミーメがいい役者ぶりを発揮して面白い。歌唱にはちょっとムラがあるように感じられたが、それが変に聞こえないのでああいう持ち味の歌い手、あるいは演出の指示なのかもしれない。ミーメはラインゴールドの時からいいところがない気の毒なキャラクターだ。ニーベルハイムでは兄アルベリヒに虐げられ、ここではせっかく育てたジークフリートの傍若無人ぶりになす術もなく手を焼いている。この後ヴォータンにも脅されたうえに最後には育ての息子に首を切って殺される…。この救いようのない気の毒な重さをこの演技(&衣裳)で軽減してバランスをとっているように感じられる。
変わって第2幕のセノグラフィは美しい。秋の森をプリントした透ける布を二枚重ねて奥行き感を出し、まるで本当の森のような雰囲気。びっしりと床に敷きつめられた色とりどりの枯葉、これはこの量を使わないと逆にとてもシャビーなものになってしまうだろう。
ヴァルキリーに続いてまた全裸の男性15人が身体に迷彩柄のペイントをして登場(演出家クラメールの趣味か?!)。彼らはラインゴールドと書かれた木箱を運び、そこから出した自動小銃のような武器でファフナーの洞穴を守っている。舞台正面中央から奥に向かって二本のレールが伸びていて、その上を椅子に座ったファフナーが警備役に運ばれてくる。車輪がないのでどうしてレールか謎だが、彼が死ぬとレールの内側のライトが消えるので大蛇かドラゴンの長さを象徴的に表しているのかもしれない。ここで驚くのがファフナー役のロバートの声!舞台奥からの声がまるでメガフォンを使っているかのような大声量で、その密度も高い。これじゃ迂闊に近寄ったら丸呑みにされるワ、と思わされるような声で説得力抜群(笑)。
小鳥はジークフリートと同じ衣装に帽子を被った子で表されている(歌唱は舞台下手裏にいるツァラゴヴァがファルスタッフのナンネッタの時と同じように美しい声を聴かせてくれた。まさに鳥がさえずるようなクリアで軽やかな声である。)。眼鏡をかけていて、のび太にソックリで笑った。彼がひっきりなしに手に持った鏡で客席と舞台に光を反射させているが、これが何を表しているのかは解らず...。
第3幕はまずヴォータンがエルダに問う場面、長方形の机が整然と並び、1つの机に1人ずつ黒衣に黒いヴェールを被ったノルンが本を前にして座っている。舞台奥に斜めに入った大鏡に上から見た舞台が映っている。ここの場面でのエルダの歌唱がまるで水底からゆらゆらと立ち上ってくるような声ですばらしい。
小鳥はジークフリートと同じ衣装に帽子を被った子で表されている(歌唱は舞台下手裏にいるツァラゴヴァがファルスタッフのナンネッタの時と同じように美しい声を聴かせてくれた。まさに鳥がさえずるようなクリアで軽やかな声である。)。眼鏡をかけていて、のび太にソックリで笑った。彼がひっきりなしに手に持った鏡で客席と舞台に光を反射させているが、これが何を表しているのかは解らず...。
第3幕はまずヴォータンがエルダに問う場面、長方形の机が整然と並び、1つの机に1人ずつ黒衣に黒いヴェールを被ったノルンが本を前にして座っている。舞台奥に斜めに入った大鏡に上から見た舞台が映っている。ここの場面でのエルダの歌唱がまるで水底からゆらゆらと立ち上ってくるような声ですばらしい。
最後におなじみのあの大階段が出現。右上に羽根つきヘルメットを被った神々(おそらく)が背筋をピンとのばして座り、中央で眠るブリュンヒルデ、そのむこうにいる行き倒れ状態のヴォータンの方に視線を向けている。
ジークフリート役のトルステン・ケール、声が良いのにほとんど聞こえない。いくらバスティーユが広いとは言え、プルミエバルコンの2列目まで聞こえてこないのは問題である。声の質と演技はこのプロダクションによく合っているように思われるので残念。この声でプロジェクションを良くすることは不可能なのだろうか…?
シリンズが前2作とは別人のようなプレゼンス!さまよい人に身を窶してはいるが、堂々としたヴォータン。エルダに対する、そしてそれに続いてジークフリートに話しかけるシーンでのヴォータンの歌唱に、凋落していく中でも威厳を失わずにいようとする彼の意識と、それにもかかわらずいとも簡単に槍を折られてしまい終焉が近づいていることを完全に知らされる彼のある意味安堵した気持ちがしっかりと感じられ、まるで物語を読み聞かされているような心持ちになる。ヴァルキリーでもこういう歌唱を聴かせて欲しかった!
シリンズが前2作とは別人のようなプレゼンス!さまよい人に身を窶してはいるが、堂々としたヴォータン。エルダに対する、そしてそれに続いてジークフリートに話しかけるシーンでのヴォータンの歌唱に、凋落していく中でも威厳を失わずにいようとする彼の意識と、それにもかかわらずいとも簡単に槍を折られてしまい終焉が近づいていることを完全に知らされる彼のある意味安堵した気持ちがしっかりと感じられ、まるで物語を読み聞かされているような心持ちになる。ヴァルキリーでもこういう歌唱を聴かせて欲しかった!
しかし最後のブリュンヒルデとジークフリートの二重唱が酷くて参った。メローは金切り声を張り上げ続けるし、ケールの声は途切れ途切れにしか聞こえない。おまけにあの階段上で演技するのが怖いのか演出の指示を思い出しながら歌ってでもいるのか、それぞれまったく関係のない事を別々に歌っているように聞こえてロマンチックな雰囲気も歓びの雰囲気も皆無である。オーケストラが奏でる音楽の方がはるかに雄弁かつ明晰に彼らの感情を表している。途中で「こんなことなら歌うのを止めちゃえばいいのに…」と思ったくらい。
というわけでカーテンコールでいちばん大きな拍手をもらっていたのがジョルダンとオーケストラ。いろいろと見どころも多く、アントラクト2回を含んで5時間10分がほんとうにあっという間に過ぎてしまった…。
PHILIPPE JORDAN Direction musical
VLADIMIR DUBOIS Cor solo
TOSTEN KERL Siegfried
WOLFGANG ABLINGER-SPERRHACKE Mime
EGILS SILINS Der Wanderer
PETER SIDHOM Alberich
PETER LOBERT Fafner
ALWYN MELLOR Brünnhilde
QIU LI ZHANG Erda
ELENA TSALLAGOVA Waldvogel
*第1幕でジークフリートがニュテラをびんから直に指ですくって舐めていて笑えた。
*シリンズの歌唱が心にのこって離れないのでヴァルキリーのヴォータンの告別から終わりまでの部分をiSTで購入。このシリンズのヴォータン、泣ける…(ライブ録音の当日は風邪をひいていたにも関わらず)。